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連載・特集

激動2013 中国地方の現場から 米海兵隊岩国基地 

機能強化 不安置き去り

 11月13日。米軍普天間飛行場に近い沖縄県の宜野湾市役所の屋上に、岩国市の福田良彦市長の姿があった。

 双眼鏡の先には、KC130空中給油機。来年夏に米海兵隊岩国基地への移転が計画される。政府の要請を受け、判断の一助とするための訪問だった。

 前日には仲井真弘多(なかいま・ひろかず)知事と会った。「できることはしっかり実行していく思いがあります」。沖縄の基地負担に理解を示し、全国で分かち合おうとする姿勢に、仲井真知事は感嘆したように話した。「(県外の自治体から)初めてうかがいましたよ」

 そして今月9日。福田市長は市議会全員協議会で、来年夏の空中給油機受け入れを表明した。政府には「普天間飛行場移設の見通しが立たないうちの先行移転は認められない」とする市のスタンスを尊重し、同飛行場の全面返還に向けて努力するよう求めた。

 一方、この判断は沖縄県の米軍基地所属部隊が、本土に移転する初のケースを導く。山口県の藤部秀則副知事と福田市長たちが国に受け入れを伝えた16日。岸田文雄外相は、国全体で安全保障を考える観点から「先頭に立ってご判断いただいた意味は大きい」と感謝したという。

 「先頭に立った」のは、これだけではない。7月末には昨年に続き、普天間飛行場に配備前の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ12機が、岩国基地に先行搬入された。10月には、オスプレイを使った国内初の日米共同訓練が滋賀県であり、岩国基地を中継した。

 本土での訓練受け入れを広げ、沖縄の負担軽減を強調したい国の狙いに沿う形で、岩国基地の存在感は確実に増している。空中給油機の移転要請も、普天間飛行場を名護市辺野古に移設させるための環境づくりが背景にあった。「目に見える負担軽減」という沖縄へのアピールだ。

 政府と沖縄に協力し、新たな負担と共生する覚悟を決めた岩国市―。と言えば、聞こえはいい。だが、こうした受け入れが市や周辺にもたらすリスクや影響については、不透明な部分が多すぎる。米軍や国から得られる情報が乏しい中、住民の安全確保や騒音対策などをどう具体的に進めるかが課題だ。

 岩国市議会では「目に見える地域振興策を」と市の発展に向けた要望が上がる一方、なし崩し的な基地機能強化を危ぶむ意見も根強い。周辺自治体からは、十分な情報共有がないまま岩国市が突き進む姿に違和感があるとの声も漏れる。

 2017年ごろまでには米軍厚木基地(神奈川県)から空母艦載機59機の移転も計画され、岩国基地は極東最大級になる見通しだ。県と市は現時点では容認していないが、基地内では着々と、受け入れに向けたつち音が響く。(野田華奈子)

KC130空中給油機移転
 空中でほかの航空機に給油する任務を負う。1996年の日米特別行動委員会(SACO)で、米軍普天間飛行場から米海兵隊岩国基地への移転に合意。岩国市は97年に容認した。政府はことし10月末、容認当初より3機増えた15機を、2014年6月から9月までの間に移転させる方針を山口県と市に伝えていた。

(2013年12月20日朝刊掲載)

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