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連載・特集

激動2013 中国地方の現場から ヒロシマ 

被爆者の救済に課題残る

 「結局、国は被爆者を見殺しにしようということなんですかね」。心筋梗塞を患う八木義彦さん(79)=広島市安佐南区=は、複雑な心境で年の瀬を迎えている。

 厚生労働省の被爆者医療分科会が16日に決めた原爆症認定の新たな基準。爆心地から1・5キロで被爆した八木さんは2年前、「放射線起因性(原爆放射線と病気との関連性)が認められない」と申請を却下された。新基準を単純に当てはめれば原爆症と認められる。

 しかし、八木さんの気持ちは晴れない。麻生太郎首相(当時)と日本被団協は2009年、原爆症認定集団訴訟の終結に関する基本方針で合意。その延長上にある今回の見直しで、裁判によらず原爆症問題を解決する制度へと抜本的に改善されることを期待していたからだ。

 国の有識者検討会が3年かけて出した提言は、病気ごとの細かい被爆条件の設定。制度見直しが小幅にとどまるのを見越し、認定申請を却下されて国を提訴した被爆者や遺族たち108人は今月、「ノーモア・ヒバクシャ訴訟全国原告団」を結成した。副団長に就いた八木さんは新年に向けて誓う。「仲間の多くは救われない。どんな形になるにせよ、共に国と闘う」

 一方、被爆者や被爆地の声が国を動かした画期的な出来事もあった。10月の国連総会第1委員会(軍縮)でまとまった「核兵器の非人道性と不使用に関する共同声明」。賛同した125カ国に、日本も初めて名を連ねた。

 声明にある「いかなる状況下でも核兵器は二度と使われるべきではない」との文言。この当たり前の道理に政府は背を向けてきた。4月のスイス・ジュネーブでの核拡散防止条約(NPT)再検討会議第2回準備委員会での同趣旨の声明に、「わが国の安全保障政策に合致しない」と賛同を見送った。

 現地を訪れていた広島市の松井一実市長は、政府代表と面会して「納得できない」と非難。8月6日の平和記念式典後に安倍晋三首相と懇談した被爆者代表も直接抗議するなど、憤怒の声は途切れることはなかった。

 こうした批判を背景に、被爆地出身の岸田文雄外相(広島1区)が賛同に向けた環境整備に動き、安倍首相が方針転換を決断した。

 「声明への賛同に続き、核兵器廃絶を責務とする被爆国として一歩を踏み出す好機がある」。非政府組織(NGO)「ピースボート」の川崎哲共同代表は指摘する。被爆地広島で14年4月にある「軍縮・不拡散イニシアチブ」(NPDI)外相会合だ。

 日本が議長国として核兵器を持たない他の11カ国をまとめ、どんなメッセージや提案を発信するのか。ヒロシマは、被爆70年の15年春にあるNPT再検討会議へのステップとなる重要な一年を迎える。(藤村潤平)

原爆症認定制度
 爆心地から約3・5キロ以内で被爆などの条件で、七つの病気を積極認定。それ以外は総合判断する。認定されると、医療特別手当として月約13万5千円が支給される。今月の基準見直しで、心筋梗塞など三つの病気は、要件から「放射線起因性(原爆放射線と病気との関連性)が認められる」との文言を削除。代わりに、被爆の距離条件を「約2キロ以内」などに狭めた。

(2013年12月26日朝刊掲載)

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