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連載・特集

イワクニ2013 在日米軍再編の軸に

 日本国内の米軍の計画が、米海兵隊岩国基地(岩国市)を基点に進められる形となった。KC130空中給油機の来夏移転と、2度目の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの先行搬入。福田良彦岩国市長が表明した沖縄の負担軽減のための空中給油機移転受け入れは、停滞していた米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題を動かす一助になったとの見方もある。在日米軍再編に向けた動きも加速するとみられ、24日に閣議決定された2014年度予算案では、岩国基地関連は空母艦載機移転関連が膨らみ過去最高額となった。艦載機移転を見据え、かつてないほどの工事が進む岩国基地では、工事車両による渋滞など周辺地域に影響も出た。(野田華奈子、大村隆、堀晋也)

給油機先行移転容認

沖縄負担軽減に理解

 12月9日。福田良彦市長は市議会全員協議会で、14年夏に普天間飛行場から岩国基地へ、空中給油機15機が移転することを認めた。

 加えて、「普天間飛行場移設の見通しが立たないうちの先行移転は認められない」との市の基本姿勢を重んじるよう政府に求め、普天間の全面返還に向けた努力を促した。16日、山口県の藤部秀則副知事たちと国に容認を伝えた。

 その後、「普天間移設の見通し」は新たな局面になった。27日、政府が移設先とする沖縄県名護市辺野古沿岸部の埋め立て申請を、仲井真弘多(なかいま・ひろかず)知事が承認したからだ。空中給油機の受け入れは、沖縄県の米軍基地所属部隊が本土に移転する初のケースとなる。

 空中給油機移転は、1996年の日米特別行動委員会(SACO)で合意。岩国市は97年に容認した。政府はことし10月末、容認当初より3機増えた15機を、14年6月から9月までの間に移転させる方針を山口県と市に伝えていた。

 福田市長は移転時期の判断のため、11月中旬に沖縄県を訪問。仲井真知事や宜野湾市の佐喜真淳市長と会談などを通じ、沖縄に集中する基地負担を肌で感じた。政府が、辺野古への普天間移設を念頭に繰り返してきた「沖縄の負担軽減」に理解を示し、国防の課題を国全体で議論する環境整備も訴える。

 だが、なし崩し的な基地機能強化を危ぶむ市民の声も根強い。すでに国に対して要望している安全安心対策や地域振興策を、どれだけ具体的に進展させられるかが、今後の課題となる。

オスプレイ

着々訓練 情報わずか

 岩国基地を拠点とした普天間所属のオスプレイの本土訓練は3月6日に開始。和歌山県から四国上空に設定した「オレンジルート」を使用したとみられ、江田島市でも機影が確認された。この時は、事前に米側から訓練日程などが伝えられたが、以後、飛来の日時を除き、詳細な情報提供はなくなった。

 7月30日には、地元住民が抗議を続ける中、オスプレイ第2陣12機が岩国基地に先行搬入された。昨夏の第1陣の時は安全性への懸念から市や市議会も強く反発したが、国の「安全宣言」などがあり、今回は一定の理解を示した。

 沖縄の基地負担軽減策の一環として10月、滋賀県での日米共同訓練にオスプレイが国内で初参加。12月には、宮崎県の航空自衛隊新田原基地でオスプレイの展示も行われた。いずれも岩国基地を経由して現地へ向かった。

 沖縄での訓練に加え、本土でも着実に実績を積み上げるオスプレイ。全国六つの訓練ルートすべてをオスプレイが飛び回る日も遠いとは言えず、岩国基地周辺の自治体の中には独自の騒音測定器を設置し、監視体制を整える動きも出てきた。オスプレイに関する問題は、岩国基地のある地元だけでなく全国に波及し始めている。

基地工事ラッシュ

大渋滞招き生活影響

 今夏、岩国基地周辺の県道を、コンクリート製のくいを何本も積んだ大型トレーラーの車列がふさいだ。基地工事に向かう車両で、ひどい場合は約2キロ離れた国道2号まで連なる大渋滞を招いた。バスが遅れるなど、市民生活にも影響が出た。

 原因は、米海軍厚木基地(神奈川県)からの空母艦載機59機を受け入れるための準備工事の集中だ。政府は1月、市と県に移転時期が3年程度遅れ17年ごろになると伝達。格納庫や駐機場整備などに加え、新たな住宅建設のため、基地内の既存施設の移設なども重なり、スケジュールがずれ込んだのが理由だ。

 4月から10月1日までの基地内工事は契約ベースで675億円、99件。基地入門時のチェックを待つ大型車両が県道にあふれ、激しい渋滞となった。9月中旬、中国四国防衛局は基地内に約400台分の車両待機場を整備。渋滞の解消に努めた。

 今月24日に閣議決定された14年度予算案では、岩国基地の空母艦載機移転関連予算は過去最高の約902億円(契約ベース)。極東最大級の基地に向けた準備は、今後さらに本格化する。

1月

  4日 米海兵隊岩国基地の米軍機によるものとみられる騒音苦情が市に2日4件、3日も7件寄せられたことが判明。米海兵隊は市との確認事項で、正月三が日は「訓練を行わない」としている。同時期に騒音苦情が寄せられるのは2008年以来
  7日 12年に市へ寄せられた岩国基地関連の苦情が2204件に上り、記録の残る1977年以降で最多だったことが判明
 25日 米海軍厚木基地(神奈川県)から岩国基地への空母艦載機の移転時期が計画より3年遅れ、2017年ごろになることを、左藤章防衛政務官(当時)が市に伝達
 29日 国の13年度予算案に、愛宕山地域開発事業跡地の土地造成費25億3100万円(契約ベース)が盛り込まれる

2月

  2日 岩国署が岩国基地所属の男性軍属を傷害容疑で逮捕
  6日 浜田市が岩国基地所属の米軍機の低空飛行訓練とみられる衝撃波で1月15日に同市内の民家のガラスが割れる被害があったと発表
 28日 在日米軍司令官が垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの低空飛行訓練を3月6~8日、岩国基地を拠点に始めると発表

3月

  5日 オスプレイの低空飛行訓練を和歌山から四国にかけての「オレンジルート」で行うことを、在日米軍が防衛省に連絡
  6日 オスプレイ3機が岩国基地を拠点に本土初の訓練を開始
  7日 岩国基地に飛来したオスプレイのうち2機が本土初の夜間訓練
  8日 オスプレイ3機が、岩国基地から普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)へ帰還
 19日 オスプレイ4機が事前連絡なしに岩国基地へ飛来
 21日 市議会が、オスプレイの低空飛行訓練に反対する意見書案を否決
 30日 日米両政府が普天間飛行場に配備するオスプレイの第2陣12機を岩国基地へ先行搬入する方向で調整していることが判明

4月

  8日 12年度に市へ寄せられた岩国基地に関する苦情が1864件。別にオスプレイ関連が216件だったことが判明
 12日 米軍が西中国山地の訓練空域「エリア567」で訓練する際、自衛隊に事前通告していたことが判明
 16日 岩国基地が5月に予定していた日米親善デー中止を発表
 23日 AV8Bハリアー攻撃機で構成される海兵第513攻撃中隊が、市などに通告なしに岩国基地に駐機していたことが判明
 30日 防衛省が、オスプレイの第2陣12機を岩国基地に先行搬入後、普天間飛行場に配備する米軍の方針を市、県に伝達

5月

  2日 4月29日から5月1日までの3日間、岩国基地の航空機騒音に対する苦情が市に計166件寄せられたことが判明。大半が夜間に集中
 23日 広島県内で12年度に目撃された岩国基地の米軍機とみられる低空飛行の目撃件数が1727件だったことが判明

6月

  4日 市が、米軍住宅建設などが計画されている愛宕山跡地の用途地域変更を都市計画決定
  6日 中国四国防衛局が、広島県北広島町と浜田市に米軍機の騒音測定器を設置すると発表
 11日 愛宕山跡地の米軍住宅化に反対する住民団体の座り込みが100回目=写真
 28日 日米両政府がオスプレイ12機を7月末、岩国基地に先行搬入することで合意したことが判明

7月

  1日 左藤防衛政務官(当時)が県、市を訪れ、オスプレイ12機を28~31日に岩国基地へ先行搬入することを伝達
 10日 廿日市市が独自に設置した騒音測定器で、6月の1カ月間に米軍機の低空飛行訓練などによる騒音を計80回確認していたことが判明
 12日 岩国基地の司令官がジェームズ・スチュワート大佐から、ロバート・ブシェー大佐に交代
 17日 国が愛宕山跡地の新住宅市街地開発事業の認可を取り消したのは違法として、愛宕山跡地周辺の住民が処分取り消しを求めた訴訟が広島地裁で結審
 22日 岩国基地の滑走路沖合移設をめぐる県の公有水面埋め立て承認の取り消しなどを周辺住民が求めた訴訟の控訴審が広島高裁で結審
 28日 市役所前でオスプレイの追加配備への抗議集会。約1200人が参加
 30日 オスプレイ12機が岩国基地に先行搬入

8月

  3日 先行搬入されたオスプレイのうち2機が普天間飛行場へ移動。12日までに計11機が移動
 19日 市に寄せられた航空機騒音などの苦情が88件。1日の件数ではことし最多

9月

  6日 防衛省が10月にオスプレイを参加させた日米共同訓練を滋賀、高知両県で行うと発表
 16日 岩国基地の工事車両による渋滞緩和のため、防衛局が基地内に400台分の車両待機場を整備
 25日 岩国基地に残っていた第2陣のオスプレイのうちの1機が普天間飛行場に移動
 27日 防衛省が岩国基地の海上自衛隊部隊の残留方針を固めたことが判明

10月

  1日 岩国基地の工事車両による渋滞緩和のため、防衛局が基地内に仮設橋を設置=写真
  3日 日米外交・防衛担当閣僚による2プラス2で、普天間飛行場のKC130空中給油機の岩国基地への移転協議を加速させることを合意。同日、防衛局が県、市を訪れ伝達
 15日 オスプレイ3機が岩国基地に飛来
 16日 滋賀県の饗庭野演習場で日米共同訓練。岩国基地に飛来したオスプレイのうち2機が参加
 30日 給油機15機を来年6~9月に岩国基地へ移転させる政府方針を、岸信夫外務副大臣が県、市に伝達。周東町の祖生通信所の再開も判明

11月

 12日 政府の給油機移転方針をめぐり、福田良彦市長が沖縄を訪問。仲井真弘多沖縄県知事と会談
 13日 福田市長が沖縄県宜野湾市を訪れ、佐喜真淳市長と会談▽岩国基地の滑走路沖合移設をめぐる県の公有水面埋め立て承認の取り消しなどを周辺住民が求めた訴訟の控訴審判決で、広島高裁が原告の訴えを却下
 16日 岩国基地で日米合同航空安全研修会。米軍と民間の小型機などの航空関係者が岩国基地で初めて意見交換
 21日 広島県内で本年度上半期(4~9月)に目撃された米軍機とみられる低空飛行の件数が1057件。調査を始めた1997年以降で最多
 22日 政府の給油機移転方針について、この日までに県、市がそれぞれ防衛局に質問書を提出
 27日 国が愛宕山跡地の新住宅市街地開発事業の認可を取り消したのは違法として、愛宕山跡地周辺の住民が処分取り消しを求めた訴訟で、広島地裁が原告請求を却下▽政府の給油機移転方針についての県、市からの質問書に防衛局が「騒音にほとんど変化はない」などと回答

12月

  1日 政府の給油機移転方針について、福田市長が小野寺五典防衛相と市内で会談。沖縄の基地負担軽減について政府の姿勢を確認
  2日 市議会定例会で、福田市長が政府の給油機移転方針や沖縄訪問の意義などについて報告。市議から市民生活への影響などについて質問相次ぐ
  5日 防衛局が、岩国基地内の建築工事の一部について積算単価を見直すことを市内業者に説明
  6日 県議会一般質問で、藤部秀則副知事が給油機移転の受け入れ条件について「普天間飛行場を継続使用しないこと」との認識を示す。「普天間飛行場の代替施設の完成」としていた姿勢を転換
  9日 市議会全員協議会で福田市長が給油機移転の政府方針の受け入れを表明=写真。「普天間飛行場の移設の見通しが立たないうちの先行移転は認められない」との基本姿勢は維持
 11日 米本正明和木町長、椎木巧周防大島町長が、それぞれの町議会全員協議会で、給油機移転の政府方針を受け入れるとする福田市長の判断を「尊重する」と表明
 13日 県議会の「岩国基地問題に関する議員連盟」(基地議連)が、給油機移転の政府方針を受け入れるとする福田市長の判断を尊重し、県にも容認を決断するよう要請
 14日 藤部副知事が福田市長、米本和木町長、椎木周防大島町長と市内で会談。給油機移転の政府方針の容認を表明▽県議会と岩国、大竹両市、和木、周防大島両町の各議員連盟でつくる「岩国基地問題議員連盟連絡協議会」が岩国市内で代表者会議。給油機移転の政府方針を容認することを確認
 15日 川本署が岩国基地所属の男性隊員を強制わいせつ容疑で逮捕
 16日 藤部副知事、福田市長らが菅義偉官房長官らに給油機移転の政府方針の受け入れを伝達
 27日 仲井真沖縄県知事が、普天間飛行場の代替施設建設のため政府が申請していた同県名護市の辺野古沿岸部の埋め立てを承認。同日、福田市長は給油機移転の基本姿勢としていた「普天間飛行場の移設の見通し」について、見通しが立ったとの認識を示す

(2013年12月29日朝刊掲載)

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