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山口知事選の課題 <下> 米海兵隊岩国基地 「沖縄代替地」根強い不安

山口県の存在かすみがち

 「沖縄にとって、一つの光が見えてきたような状況だった」。1月22日、岩国市役所を訪れた沖縄県の高良倉吉副知事は、福田良彦市長に感謝の言葉を繰り返した。米軍普天間飛行場を抱える同県宜野湾市の佐喜真淳市長も今月4日に訪れ、謝意を伝えた。

 米海兵隊岩国基地(岩国市)には、同飛行場のKC130空中給油機部隊が6~9月の間に移転する。米軍再編計画に基づくこの政府要請を、山口県と岩国市は昨年末、「沖縄の基地負担軽減」を主な理由に受け入れた。そのお礼が最大の目的だった2人は、山本繁太郎前知事が不在の県には行っていない。

 移転そのものは1997年に容認していたが、沖縄から米軍部隊が本土に移る初のケース。政府は、同飛行場の名護市辺野古への沖縄県内移設に向け、垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの訓練分散など沖縄の負担軽減に注力する。その流れの中、給油機を受け入れた岩国はまるで「本土の模範」のようにも映る。

 岩国が果たす役割の「見返り」を期待する声も高まった。岸信夫外務副大臣(山口2区)は、沖縄の基地負担軽減に協力した自治体を対象に交付金制度の創設を目指すと表明。山口県議会や岩国市議会などの議員でつくる岩国基地問題議員連盟連絡協議会は1月末、実現に向けた国への働き掛けの強化を確認した。

 岩国基地には2017年ごろまでに、米海軍厚木基地(神奈川県)から空母艦載機59機も移転する。県も市も現時点では容認していないが、市は、08~09年にかけて国に要望した43項目の安全安心対策や地域振興策の達成度を見極めた上で、判断するという。国と県、市の3者で話し合いを継続しており、どの程度実現できるかが焦点となる。

 岩国基地をめぐる検討課題について県はこれまで、「地元の意向を尊重する」「今以上の基地機能強化は認められない」などの基本姿勢で対応してきた。だが実質は、市の判断結果に依拠する部分が大きい。給油機受け入れの判断材料とした福田市長の沖縄訪問や、財政支援の実現を目指す県議たちの行動を見ても、県の存在はかすみがちだ。

 岩国基地内では米軍再編に関連した工事が着々と進み、愛宕山地域開発事業跡地も米軍住宅用地として既に国に売却された。さらに、最新鋭ステルス戦闘機F35が移転する可能性やオスプレイ飛来増加の懸念もある。極東最大級の基地へと突き進む不安は住民にも根強く、受け入れの判断はいっそう重みを増す。もっと県が主体的に検討する過程があっていい。

 「沖縄の代替地とされ、若者が住みづらい町になるのでは」と、「愛宕山を守る会」の岡村寛世話人代表は将来を案じる。「地域に対するビジョンや理念が、今の政治家にあるのだろうか。市の意向をくむのが『地元尊重』ならば、知事の責任を放棄することにならないか」。そんな疑問が膨らんでいる。(野田華奈子)

(2014年2月14日朝刊掲載)

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