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連載・特集

ヒロシマの声 世界に 広島で11日からNPDI外相会合 被爆地からの思い

 広島市で11、12の両日に開かれる、核兵器を持たない12カ国でつくる軍縮・不拡散イニシアチブ(NPDI)の外相会合は、核兵器の廃絶と世界の恒久平和へ、ヒロシマの声を世界に発する絶好の機会となる。11日に外相との意見交換会に出席する高校生平和大使の広島県立広島高3年松岡朱音さん、12日に原爆資料館(中区)を案内する館長の志賀賢治さん、被爆体験を証言する小倉桂子さんの3人に、外相たちへ託す思いを聞いた。

外相たちに体験を語る被爆者 小倉桂子さん(76)

核兵器廃絶 政治の力で

 8歳の時、爆心地から2・4キロの広島市牛田町(現東区)で被爆した。自宅近くの路上にいて、爆風に吹き飛ばされた。無残に体を焼かれて水を求める人、焼け野原と化した市街地の光景。今も目に浮かぶ。

 あれからもう70年を迎えようとしている。核兵器廃絶はなんと難しいことか。ヒロシマの声は届かず、世界の核情勢は一向に好転しない。悔しさを抱えたまま、被爆者が亡くなっていく。だから、被爆体験を語る時はいつも「核兵器廃絶へのバトンを引き継いでください。走るのはあなたですよ」との思いを込める。人任せではなく、一人一人ができることに本気で取り組んでほしいから。

 今回、私の体験を聴いてくれる外相たちにもその思いを届けたい。核兵器の廃絶を進められる力を持っている人たち。さらに情熱を燃やしてほしい。「積み上げてきた努力は十分でない。今こそ、本気で知恵を絞ろう」。そんな強い意志を引き出したい。

 被爆者の代表として証言する責任の重さを痛感しているが、通訳として聴いた多くの被爆者の顔を思い浮かべながら話したい。100人いれば100通りの体験がある。今なお続く後遺症、つきまとう差別との闘い、両親を失った原爆孤児の苦しみ…。原爆がいかに救いようのない兵器か、ヒロシマの声を代弁するつもりだ。

 市民のみなさんにも一つ、お願いがある。NPDI外相会合にもっと関心を持ってほしい。広島は、核兵器廃絶の思いを持った世界のリーダーが議論の場に選び足を運んでくる街だ。そこにいる私たちは今、何をしないといけないのか、あらためて考える機会だ。若者を先頭に、世界平和を目指して被爆者と市民みんなで走り続けよう。(田中美千子)

おぐら・けいこ
 37年広島市中区生まれ。80年から広島を訪れる海外の平和運動家や芸術家たちの通訳・コーディネーターを始める。84年、平和のためのヒロシマ通訳者グループ(HIP)を設立し、現在も代表を務める。

原爆資料館を案内する館長 志賀賢治さん(61)

一人一人の「生」感じて

 館長に就いて1年間で多くの気付きを得た。その一つが、遺品と向き合い、死者と対話する姿勢の大切さだ。黒焦げの弁当箱もぼろぼろに焼けたワンピースも、持ち主がいた。突然、当たり前の暮らしを奪われた。無言の遺品が、ヒロシマの惨劇を物語っている。

 これまでに案内した要人たちも、遺品を前にすると最も強烈に反応した。3月下旬に案内した前コスタリカ大統領の夫人は学徒の遺品を前に涙していた。きっと子どもを失った親に思いを重ねたのだろう。人は想像し共感する力がある。

 12日に原爆資料館を案内するNPDIの外相たちにも、「14万人プラスマイナス1万人」(1945年末までの死者数)の命を奪った広島原爆のすさまじさだけでなく、原爆に奪われた一人一人の「生」を感じてもらえるよう努めたい。

 見学後に自由に感想を書いてもらうノートの記述を見ると、海外では原爆が人間に何をもたらすか、思いのほか知られていないと実感する。12カ国はいずれも核兵器廃絶に熱心だが、進め方などをめぐっては考え方に違いがあるという。資料館の「実物」資料に触れてもらえば、きっと廃絶に向けた議論と行動に生きてくると確信している。(田中美千子)

しが・けんじ
 52年広島市中区生まれ。78年、広島市職員。情報システム課IT推進室長、市立大事務局長、健康福祉局長などを経て13年3月に定年退職。同年4月、被爆2世として初めて原爆資料館長に就いた。

意見交換をする高校生平和大使(広島県立広島高3年) 松岡朱音さん(17)

「核の違法化」実現望む

 「高校生平和大使」としての活動や核兵器廃絶を求める署名集めを通じて、日本の外務省の人と接する機会が増えた。「核兵器をなくそう。でも核兵器は必要」と訴えていると知った。軍縮大使から「核兵器はいらないと決めてしまったら、核兵器を持つ中国との関係が危なくなる」と言われたこともある。納得できなかった。

 核兵器は一発でも恐ろしい被害をもたらす。どこかで再び使われるかもしれない。原爆犠牲者の思いを引き継ぐべき立場からみれば、そのような兵器がいまだにある方が危険すぎる。

 NPDI外相会合では、国連などで出されてきた「核兵器の非人道性」に関する共同声明をさらに進めた提案をしてほしい。「非人道的だ」と指摘することで満足すべきでない。「だから国際法で違法化する」と踏み込むことが、私の望むNPDIの成果だ。

 11日に外相たちとの意見交換会に出席する。広島の高校生の思いをしっかりと伝えたい。そして核抑止力についての見解をストレートに聞きたい。核兵器廃絶に本気かどうかが見えてくる、根本的な問いだから。(金崎由美)

まつおか・あかね
 96年呉市生まれ。高1のとき核兵器廃絶を求める「高校生1万人署名活動」に参加。昨年8月、広島と長崎の市民団体主催の「高校生平和大使」としてスイスの国連欧州本部を訪問。スピーチをし、集めた署名を提出した。

開催に合わせ講演会など企画 核兵器廃絶をもとめるヒロシマの会共同代表 森滝春子さん(75)

市民による発信が必要

 NPDI外相会合に合わせ、広島と東京の市民団体や、海外の非政府組織(NGO)が「医学的見地からみた核兵器の非人道性」をテーマにした講演会や、市民イベントのインターネット発信を計画している。核兵器廃絶をもとめるヒロシマの会(HANWA)共同代表の森滝春子さんに、企画の意図などを聞いた。

 外相たちが核抑止力の肯定を前提とした成果文書を広島から発信すれば、それが被爆地の思いをくんだものだと国際社会は受け取るかもしれない。とんでもないことだ。市民による発信が必要だと思った。

 岸田文雄外相が長崎で行った軍縮演説は、いざとなったら日本のために核兵器を使ってもらうと言ったに等しい内容だった。NPDIの議論も、この演説に沿ったものになるのではないか。核保有国に「核兵器の役割低減」を求め、それを自画自賛するぐらいでは到底評価できない。

 核兵器はいかなる状況でも決して使われてはならなず、廃絶するしか道はない。保有国が重い腰を上げるのをこれ以上待つことはできない。クラスター弾や対人地雷の禁止条約から学ぶべきは、有志国と市民が廃絶実現を目指し、保有国を包囲していくことだ。

 日本政府はNPDIを、溝が深まっている核保有国と非同盟諸国の間の懸け橋だと位置付けている。米国務次官の広島訪問を取り付けたのも、その一環だろう。しかし、核大国が廃絶へと本当にかじを切る契機になるとは思えない。

 それより核兵器禁止条約の実現のためにこそ懸け橋になるよう求めたい。NPDIが世界の市民からもっと評価されるはずだ。(金崎由美)

もりたき・はるこ
 39年広島市中区生まれ。広島大教育学部卒。核兵器廃絶日本NGO連絡会の共同代表、ウラン兵器禁止国際連合(ICBUW)運営委員などを務める。広島県被団協の初代理事長だった故森滝市郎・広島大名誉教授の次女。

(2014年4月7日朝刊掲載)

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