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連載・特集

憲法は今 <下> 被爆地の目 反核と護憲 つながらず

広島の若者奮起 促す声

 戦争放棄を定めた憲法9条にノーベル平和賞を―。神奈川県の主婦がインターネットで署名を呼び掛けた市民運動は支持を広げ、9条はことしの同賞の候補に決まった。実行委員会によると、集まった署名は2日現在で約5万人。その中で被爆地広島からの賛同者は目立たない。

 運動の推薦人に名を連ねる広島大大学院総合科学研究科の辻学教授(新約聖書学)は「この署名は平和運動の切り口の一つ。核兵器廃絶と直接はリンクしていないので、広島で盛り上がりが欠けたとしても不思議ではない」という。

 ただかつて、被爆地からの核兵器廃絶の訴えは護憲運動と軌を一にしていた。「広島の被爆体験が平和憲法の原点」。全国被爆教職員の会会長などとして原水爆禁止運動の先頭に立った元広島県議石田明さん(2003年死去)は、集会などで護憲の重要さを繰り返し説いた。

 しかし今―。当時を知る県原水禁の金子哲夫代表委員は転機を1990年代とみる。「労働組合や社民党の力の衰えがあって、反戦・護憲運動が弱くなってしまった。近年、中国や韓国との間の領土問題でナショナリズムが高まる中、平和運動をうまく対応させることもできていない」

 4月下旬、広島市内であった広島高校生平和ゼミナールの一日平和学校。「核廃絶だけでなく、憲法も含めて平和問題全般を学ばないとね」。世話役の教諭の問題提起に、生徒の反応はいまひとつだった。参加した3人のうち1人は「改憲の動きが自分たちに関係あるとは思えない」。そう本音をつぶやいた。

 世話役を務める山陽高(広島市西区)の盆子原賢治教諭は危機感が拭えない。「真面目に勉強する生徒ほど領土問題などで中韓に反感を持ち、軍事力が大切と考えがち。広島で憲法9条の価値は揺らいでいますよ」

 同ゼミは、市内の私立4高校の有志による自主活動。核問題や領土問題などの勉強会を開くなどしている。10年前は約30人いたが、今は1桁が常態化した。隔年の夏に広島市である全国高校生平和集会の運営なども担う。同ゼミ実行委員長の崇徳高3年藤原崇一朗君(17)は「全国大会に行くと、他県からは参加者が多くて驚く。広島には油断があるのかもしれない」と、同世代の問題意識の低下を感じ取る。

 そんな中、「ヒロシマには世界への影響力がある」と広島市立大広島平和研究所の河上暁弘准教授(憲法学)は若者の奮起を促す。そして期待を込める。「被爆地の若い世代には、世界で今起きていることや身近な暴力などについても勉強してほしい。そして平和憲法の素晴らしさを正しく認識し、世界に広めてほしい」(馬場洋太、写真も)

(2014年5月3日朝刊掲載)

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