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検証 島根原発事故 27時間避難 <下> 広域連携 県またいだ議論 鈍く

 島根、広島県境の赤名峠から南東18キロ。西城川のほとりに三次市の河内コミュニティセンターがある。中国電力島根原子力発電所(松江市鹿島町)の事故に備え、原発30キロ圏の雲南市からの避難所として三次市が選んだ27施設の一つだ。

 島根県が避難ルートとする尾道松江線松江自動車道の三次東インターチェンジから直線距離で6キロ。昨年3月の松江道全通で「避難が現実味を帯びた」とセンター長の山田武行さん(67)。「困ったときはお互いさま。地域全体で被災者をサポートしたい」と話す。

 一方「福島第1原発事故のように避難が長期化したら被災者が耐えられるだろうか」とも。避難に使える4室は計210平方メートル。被災者の占有面積を1人3平方メートルとする国の基準に基づけば70人を収容できるが風呂はない。非常食の配備もまだ。毛布も10枚だけだ。

 5月30日に島根、鳥取両県が示した原発事故時の避難試算はあくまで30キロ圏約47万人の圏外への脱出時間。6割弱に上る島根県民約27万人は広島県22市町、岡山県27市町村へ向かう計画だが、脱出後に待ち受ける避難所の運営など県をまたいだ議論は鈍い。

 「まだ施設を割り振った段階」。広島市消防局防災課の久保富嗣課長は明かす。同市は最多の4万5600人を138施設で迎える予定だが、吉島公民館(中区)の熊本康治館長は「ここで受け入れるとは初耳」と驚いた。

 避難所到着までのハードルも高い。例えば放射性物質の付着を調べるスクリーニングだ。島根県は県内の30キロ圏外の国道上などで済ませた後、他県へ避難させる方針。被災者1人の検査に数分かかるため、大量に押し寄せた場合は避難が滞るのは必至だ。

 スクリーニングは島根県の役割―。広島、岡山県と5月28日に結んだ避難協定でようやく明記された内容だ。島根県が避難先市町村を決めた2012年11月から1年半。「国が方針を示さない」(県防災部の大国羊一部長)のは対応の遅れの一因だが、危機意識の欠如を指摘する声もある。

 「スピード感がない。実施地点と対応人員を早く決め、現実的なスクリーニング訓練をしないと有事に動けない」。松江市民3800人を受け入れる奥出雲町の吉山満危機管理監は強調する。スクリーニング地点3カ所を、再三県に提案しているが「国の方針待ち」との返事しかない。

 除染などを担う陸上自衛隊化学防護隊に属した経歴を持つ吉山管理監。12年5月の着任以降「原発に絶対安全などない」と1年分の避難食の献立を作ったほか、受け入れに理解を求める町民説明に奔走する。「事故が起きてからでは住民を守れない。国、県、市町村が自分の問題と捉えて、備えを充実するしかない」と考えている。(樋口浩二)

(2014年6月3日朝刊掲載)

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