×

連載・特集

海自呉地方隊60年 第3部 自衛官になる <5> 使命の重み 本分は国防 自己律する

 武器庫の前に列をつくる学生の顔はこわばっていた。

 海上自衛隊呉教育隊に入隊して1カ月半後の5月19日にあった武器貸与式。学生一人一人が荒木万寿男教育部長(54)=2佐=から小銃を受け取った。長さ1メートルほど。重さは4・3キロある。

 「重たいか」。教官は学生に問い掛け、そして続けた。「それは平和の重み。人を撃たない平和な時代が続いてほしい。しかし、いざとなったらこれを使い身を守ってほしい」

小銃貸与で自覚

 様子を見守った呉教育隊の茂津目晴道司令(55)=1佐=は「自衛官の自覚を持つ象徴的な場面」と説明した。

 教務の合間に仲間とじゃれ合うなど、あどけなさが残る学生。それがわずか5カ月の教育を経て、部隊に配属される。「艦も銃も殺傷力のある武器。普通の社会とは違った緊張感が必要」。井手敏美教官(45)=1曹=は強調する。

ぶれない軸築

 学生の脳裏からは、東日本大震災の被災地での自衛隊の献身が離れない。近年は「人を助けたい」と入隊するケースが目立つ。茂津目司令は若者の熱意を喜びつつも「自衛隊の本分はあくまで国防。命令があれば突っ込まなくてはいけない」とくぎを刺す。

 どんな過酷な試練、社会情勢に置かれても自衛官として、ぶれない軸を築きたい―。司令以下、教官たちの願いだ。司令が発案し呉独自で取り組むのが、道徳を中心とした「心の教育」。自己を律する生活習慣、社会に対する献身、使命感などを育む狙いだ。

 毎週水曜を「訓育の日」とし、教務前の朝に歴史上の人物のドキュメンタリー映像を見たり、哲学の本を読んだり。教官も率先垂範し、学生のやる気を引き出す。  「覚悟を決めています。大丈夫。頑張りますよ」。時に危険を伴う職務への不安を尋ねると、一般曹候補生の堀川勇人さん(18)は笑顔で答えた。  8月下旬、学生は辞令を受け取ると、直ちに全国の部隊へと散っていく。総勢約4万2千人の海自隊の一員として国防を担う。  自衛隊の任務は国際化、多様化の一途をたどる。集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈変更の是非をめぐる論議も国会などで活発化している。  彼らが現場で勤務に就く頃、自衛隊を取り巻く環境がどう変わっているのか。先行きは不透明だ。ずっしりと重たい小銃。構え、引き金を引く局面、時代が来ないことを願わずにはいられない。(小島正和)=第3部おわり 集団的自衛権をめぐる情勢
 安倍晋三首相は、自ら設置した有識者懇談会から、集団的自衛権行使を容認すべきだとする報告書の提出を受け、行使を限定的に容認する憲法解釈変更の基本的方向性を表明。与党協議を経て、解釈変更の閣議決定を目指している。政府は武力攻撃を受けている米艦の防護、海上交通路における国際的な機雷掃海活動への参加など15事例を示した。 (2014年6月7日朝刊掲載)

年別アーカイブ