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基地のまちは今 迫る給油機岩国移転 <中> 市民と「隣人」 広がる交流 共存探る

犯罪やトラブルは懸念

 米海兵隊岩国基地から西へ約20キロ。清流錦川沿いの岩国市天尾(てんのお)地区に広がる水田に15日、海兵隊員や家族たち28人の姿があった。一列に並び、地元のお年寄りの手つきをまねて、田植えに挑戦。市民グループ「地域交流の里」が6年前から続ける米軍関係者との交流行事だ。

 「みんなに優しくしてもらえてうれしかった。田舎の雰囲気や日本の文化が好きになった」と、4月に着任したばかりの海兵隊員ファビオラ・ペレスさん(20)。米軍側からの参加は毎回、キャンセル待ちが出るほどの人気という。

 7月8日から始まるKC130空中給油機15機の移転など、在日米軍再編によって3年後の岩国基地の米軍関係者は、現在の倍近い1万人以上に増える見通しだ。地域交流の里の新庄菊子代表(87)は「顔を見て交流することで互いの文化を理解し合えるはず」と息の長い活動を目指す。

 基地周辺の川下地区では、米軍関係者の増加に備えた動きが出ている。基地内で約20年働いていた松田和子さん(55)は昨年2月、基地正門そばに不動産や中古車を扱う店を開業した。「周辺の住民や商店と連携し、にぎわいを取り戻したい」と、米軍関係者も参加してのフリーマーケットなども開催した。

 周辺では、ここ数年で飲食店が15軒以上閉店。最盛期に100軒以上が加盟していた川下社交場組合は約2年前、岩国駅前料飲組合と合併した。全国で相次いだ米兵による事件を受け、米軍関係者の飲酒が制限されたことが背景にあるという。最後の組合長の永峯守俊さん(73)は「米兵が増えても制限が解けないことには」と心中は複雑だ。

 市は、本年度まとめる総合計画で「基地と共存するまち」とのスタンスを明文化する方針だ。騒音軽減や事件事故防止、日米交流推進など、基地絡みの施策も初めて盛り込む。

 愛宕山地域事業開発跡地では、2017年ごろの空母艦載機移転に伴う米軍家族住宅や、市民も利用できる運動施設の整備が国によって始まった。野球場の名称には「KIZUNA(絆) STADIUM」が候補に挙がり、日米親善の新拠点をうたう。

 だが、基地に隣り合う車第三自治会の山縣克彦会長(67)は「日本人従業員や車両も増え、基地周辺は今より渋滞するのに道路整備は進まない」と地域の課題が改善されないことに悶々(もんもん)とする。

 さらに「米軍関係者が増えれば沖縄のように犯罪やトラブルが多発するかもしれない」と指摘。日米地位協定の抜本的な見直しにめどが立たない中、警察の対応強化や日米間での犯罪防止の取り組みを訴える。

 23日には給油機移転を踏まえ、防衛省岩国防衛事務所に質問書を提出した。「沖縄の負担を軽減する優しさがあるのなら、まず地元の実情を聞いてほしい」。移転が迫るにつれ、その思いは強くなる。(増田咲子、野田華奈子)

(2014年6月27日朝刊掲載)

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