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少年兵題材 新作に使命 根底に政治への危機感 那須正幹さん 広島で講演

 「ズッコケ三人組」の生みの親で広島市西区出身の児童文学作家、那須正幹さん(72)=防府市=が、中区であった広島市出身の児童文学者、鈴木三重吉の法要に招かれて講演した。被爆者の那須さんは、集団的自衛権の行使容認の動きなどに強い危機感を抱いているとして、執筆に力を注ぐ新作への思いなどを語った。

 新作は「戦場の少年たち」をテーマにした短編連作だ。題材にするのは、戊辰戦争の二本松少年隊、満蒙開拓青少年義勇軍、太平洋戦争末期の沖縄での鉄血勤皇隊―。当時の手記などを参考に、福島、沖縄県にも取材して構想を練る。

 「今までの戦争児童文学は被害を受けた子どもを描いていた。だが、歴史を振り返れば、少年兵の存在がある」と戦争の本質を説く。「皆さんの子どもや孫が、戦闘に加わるかもしれない。いま書いておかないと」。使命感の根底にあるのは、集団的自衛権の行使を憲法解釈で可能にするいまの政治への危惧だ。

 那須さんは3歳の時、己斐本町の自宅で被爆。「あの体験は人生の原点」と語る。ただ「物心ついてから原爆の話は何度も聞き、文学の対象ではないと思っていた」と打ち明ける。転機は防府への移住と長男の誕生。「子どものため原爆について書いておきたい」。素朴な気持ちが湧き、「原爆の子の像」建立をテーマにした「折り鶴の子どもたち」の刊行につながった。

 東日本大震災後には福島県を訪れ、子どもたちを励ました。そこで、小学6年の女子児童が「私は30歳になったら死ぬと思っていました」と話すのを聞き、衝撃を受けた。「放射性物質は、身体だけでなく、心まで損ねてしまう。原発はやっぱりいけない」。いつか来た道を再び歩むまいとの決意が、新作執筆へ自らを駆り立てたという。

 講演会は6月27日の三重吉の命日を前に「鈴木三重吉赤い鳥の会」が開いた。那須さんはこのほか、児童文学との出合いや、ベストセラーとなった「ズッコケ三人組」の創作エピソードを紹介した。(石井雄一)

(2014年7月2日朝刊掲載)

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