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連載・特集

アニメーションフェス30周年 広島から世界へ <下> 地域の宝 次世代育てる土壌 着々

 「どういう意図で作ったのかな」。広島市東区の比治山大短期大学部で6月中旬にあった映像・アニメーションコースの授業。アニメーション作家の山村浩二さん(50)=東京都=が、学生の作品に目を通し、質問を投げ掛ける。

 「もっと動きを付けたら意図が伝わりやすい」「完成度を高めるには、最後のオチを別の表現にしてもよかったんじゃないかな」。世界各地の大会で受賞を重ねる作家からの講評は、これ以上ない学びの場だ。学生は表現を深めようと、真剣な表情で耳を傾ける。

 2012年度に新設された同コース。山村さんは「作家になる原点となった広島の地に少しでも貢献できれば」と13年度から客員教授を引き受けた。2年の松葉千織さん(19)は「第一線で活躍している人に作品を見てもらえるのは大きな刺激。次にしっかりと生かしたい」と目を輝かせる。

 08年から東京芸術大の教壇に立つなど、教育に力を入れる山村さん。「アニメーション文化を発展させるには、若い層を育てる教育が欠かせない。天才は育てられなくても、その人の持つ能力を引き出したり、アニメーションへの理解を深めたりする手助けはできる」と力を込める。

 広島国際アニメーションフェスティバルの歩みとともに、地元の若い芽も育ってきている。前回は広島市立大大学院を08年に修了した杉殿育恵さんと西尾都さんのコンビが地元勢で初入選。参加した広島の学生がアニメーション業界で活躍するケースも増えてきた。

 一方、国際的に評価の高い祭典にもかかわらず、地元市民の盛り上がりはいまひとつとの指摘も根強い。芸術性が高く、実験的な作品が集う祭典は、ともすれば難解に映りがちだ。そんな状況を解決しようと、広島市は、子どもたちがアニメーションに接する機会づくりを始めた。

 10年の第13回からは、公民館や図書館で小学生を中心としたパラパラアニメーション教室をスタート。中学校の美術教諭にアニメーション制作の機材を貸し出し、生徒の作品を発表する上映会も始まった。

 昨年度には比治山大とメディア芸術の普及や振興に関する協定を締結。本年度からは、同大が中学校の美術教諭向けのアニメーション教本の作成を始めた。

 教本には、特別な機材なしでもアニメーションを作る喜びを味わえる内容を盛り込む。今秋完成させ、中学校でワークショップを始める予定だ。教本作りの中心となっている宮崎しずか助教(31)は「アニメーションを教えられる指導者はまだ少ない。興味がある子どもが広く学べる環境をつくりたい」と話す。

 30周年を迎えたフェスティバル。応募作品が増え続ける祭典を限られた事業費でどう切り盛りするかなど課題も多いが、多くの作家とのつながりが生まれ、次世代を育てる土壌ができてきた。「愛と平和」を掲げる祭典の価値をかみしめ、さらに発展させる方策を考える時が来ている。(余村泰樹)

(2014年8月14日朝刊掲載)

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