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社説・コラム

私の学び 広島国際学院大学長・佐々木健さん 

現場で役立つ技術を発明

 専門はバイオ環境化学。微生物の力を借りて水や土をきれいにする方法を研究する。湧き水の水質を調べる「名水鑑定」はライフワークだ。

 子どものころ、近所に造り酒屋があり、酒の香りになじみながら育った。大学では発酵を専攻。卒業後3年間、酒造会社に勤め、こうじ作りや廃水の浄化を担当した。

 現場で課題に向き合ったことで、多くを学んだ。廃水の浄化処理は、マニュアルや上司の指示通りでは必ずしもうまくいかない。液の成分や温度の違いで、適切な酸素の量や酸性度が異なることは経験でつかんだ。もっと勉強しようと、大学院で学び直した。

 研究者になり、企業を技術指導するようになってからも、逆に現場の人に教わることが多々あった。ある企業の担当者は、装置の能力を超える大量の廃水を処理するため、標準的な方法とは逆に酸素濃度を下げ、浄化を成功させていた。現場の経験が編み出した「神業」に脱帽した。

 こうした工夫を実らせるには、失敗したときも含め、数値をきっちり記録しておくのが鍵を握る。学生にも、いつも指導している。色や粘り気など、五感の情報も大事だ。

 一つの研究テーマを追い続けると関心が広がり、新たなテーマにつながる。福島第1原発事故後に力を入れ始めたバイオ技術による農地除染プロジェクトも、広島での名水鑑定の延長線上にある。現場を訪ね歩くうちに、平和記念式典で供える「献水」に関心を持ち、平和関連の講演会に誘われた。そこで、湾岸戦争で使われた劣化ウラン弾による放射能汚染を知った。

 重金属を吸着する光合成細菌を大学院で研究したことを思い出し、実験を重ねると、ウラン、コバルト、ストロンチウムを吸着できた。研究の意義はなかなか理解されなかったが、細々と続けるうちに、原発事故が起きた。

 福島県内の農地で試験を続け、栽培した野菜の放射能を食用基準内に収めることに成功した。「広島大での授業で、佐藤静一先生(故人)が話していた『一生懸命やれば絶対、ものになる』との言葉をいま、かみしめている」

 遺伝子レベルのメカニズムまで解明しないと理論的でないと評する研究者もいるが、現場で役立つ技術を発明するのが僕のスタイル。ヒロシマ発の技術が福島で役立つなら、願ってもないことだ。(聞き手は馬場洋太)

ささき・けん
 呉市出身。広島大工学部卒。酒造会社勤務を経て、広島大大学院工学研究科博士後期課程単位取得退学。旧広島電機大教授、広島国際学院大工学部長などを経て、14年4月から現職。著書に「広島県の名水」など。

(2014年8月25日朝刊掲載)

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