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連載・特集

緑地帯 「ミリキタニ」と出会う 峰崎真弥 <1>

 私は「絵を描くことが好き」という素朴な動機から、東京の美術大に進んだ。卒業後、故郷の江田島市に戻ってきた理由に、ある映画が関係している。米国のリンダ・ハッテンドーフ監督による「ミリキタニの猫」。自身の家族史を掘り下げることに興味を持ったのはこの映画からだった。

 ミリキタニは「三力谷」。米ニューヨークの路上に暮らした反骨の日系人アーティスト、ジミー・ツトム・ミリキタニ(1920~2012年)である。映画は、広島にもゆかりが深い彼の人生を追ったドキュメンタリーだ。

 廿日市市のはつかいち美術ギャラリーで31日まで、彼の回顧展が開かれている。大好きな猫を描いた絵に交じって、炎に包まれた原爆ドームや、第2次世界大戦中、日系人を「敵性外国人」として隔離した強制収容所の様子を描いた絵もある。

 日本でこの映画が公開された2007年、私は美術大の1年生で東京に住んでいた。ある日、母から一枚のはがきを受け取る。表には、真っ赤なベレー帽で無精ひげをたくわえ、ピースサインをしているおじいさんの写真。主人公の姿をあしらった「ミリキタニの猫」のPRはがきだった。母からは一言、「東京でもやっているみたいなので、見てみてね」。インターネットで上映会場と時間を調べ、見に行った。

 これが、私とミリキタニとの出会い。そして、私の家族との出会い直しの始まりだった。(みねさき・まや アーティスト=江田島市)

(2014年8月20日朝刊掲載)

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