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連載・特集

緑地帯 「ミリキタニ」と出会う 峰崎真弥 <8>

 ジミー・ツトム・ミリキタニの作品が31日まで、廿日市市のはつかいち美術ギャラリーに並んでいる。故郷広島では初の回顧展。私も足を運び、彼の飽くなき情熱を体感した。たとえ路上生活を強いられても、彼には絵を描き続けることが当たり前だった。

 映画「ミリキタニの猫」で見せた、怒りに満ちた目や、人を寄せ付けない言葉。それとは裏腹に、彼の絵には人間らしさ、生き物への慈しみがあふれている。それこそが、彼の怒りの源だったのではないか。戦争や迫害に、反抗しないではいられなかったのだ。

 もう一つ、他人の評価ではなく、自分で自分や世界を評価する指標を持っている感じも、私には印象的だった。かっこいいなと思った。

 ミリキタニと同じ日系人強制収容所にいた私の祖母は、収容所について自分から語ろうとはしなかった。彼のように怒りを爆発させることもなかった。祖母をめぐる家族史を調べ、その訳も私なりに見えてきた。

 戦争と強制収容の時代を生きたミリキタニや祖母は、不遇だったとはいえるだろう。でも、2人がその境遇をどう感じたかは全く異なるし、今の時代に生まれた私には、私の「不遇」があるといえるのかもしれない。

 ミリキタニのおじいちゃん、うちのおばあちゃんは、「今を生きる」ということを教えてくれた。与えられた状況に、精いっぱい応え、あらがい、生きていくこと。私たちも時代を生き、生きる端から歴史になるのだ。(アーティスト=江田島市)=おわり

(2014年8月29日朝刊掲載)

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