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連載・特集

海自呉地方隊60年 第5部 基地と地域 <4> 観光資源 迫る巨大艦船 誘客の柱

 海上自衛隊のセーラーを着た若い女性や子どもが男性隊員と並び記念撮影する。海自隊呉史料館てつのくじら館(呉市宝町)1階の一角は「コスプレ」や隊員との交流を楽しめる。人は途切れない。

年30万人が来館

 道路を挟んだ大和ミュージアムに2年遅れて2007年に開館した。退役した潜水艦の実物展示をメーンに、機雷掃海や潜水といった海自の任務を紹介する。隊員の研修施設だが、無料で見学もできる。開館以来毎年30万人以上が訪れている。

 「一緒に呉の観光を盛り上げていく」。森野智之館長は両館の連携の大切さを説く。大和ミュージアムで開催している「戦艦大和・武蔵の進水式展」に合わせ、海自艦の進水式の絵はがきを集めた企画展も開いている。

 「戦艦大和のふるさと」として、旧海軍ゆかりの史跡やグルメを観光の柱に据える市も海自隊に寄せる期待は大きい。市観光振興課の神垣進課長は「間近に巨大艦船が迫る風景は呉では当たり前でも市外では非日常。誘客効果はある」。

 市の観光周遊バスは大和ミュージアム、海自隊呉地方総監部、入船山記念館…と、旧海軍と自衛隊の施設がある場所を巡る。潜水艦や艦船に近い昭和町の「潜水隊前」での乗降が目立つという。

 近年、自衛隊は国民との距離の近さや親しみやすさをPRする。自衛隊情報誌の表紙を女性アイドルが飾り、全国の「イケメン」隊員を収めた写真集も発売された。自衛隊広島地方協力本部は本年度初めて「自衛官募集」のポスターの図柄をアニメ風にした。

 元海上自衛官で、ボランティアガイドでつくる「てつのくじら館協力会」の中村博太郎会長(79)は「軽さ」に戸惑いもあると言う。ただ「市民に自衛隊を知ってもらえれば」と前向きだ。

震災後に見学増

 呉基地の部隊は毎週日曜日に艦艇を公開している。呉地方総監部によると、13年度の1日平均見学者数は487人。5年で2・6倍に増えた。東日本大震災直後の11年度の伸びが顕著で「被災地で活動する隊員の姿を見て関心が高まったのも一因」とみる。

 自衛隊の観光化に護憲や平和を訴える市民団体から批判もある。だが観光客は見慣れぬ艦に歓声を上げる。海軍史跡を主に案内する呉観光ボランティアの会の福原実夫会長(78)は「ガイド向けの自衛隊の学習会も必要になってくる」と今後を探る。(小島正和)

(2014年9月5日朝刊掲載)

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