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連載・特集

海自呉地方隊60年 第5部 基地と地域 <5> 根付く人たち 退職隊員4割 呉に残る

 呉市西部の山あいを縫う4・2キロの県道焼山吉浦線。15年ほど前は、沿道脇の茂みや休耕田へのごみ投棄が絶えなかった。今、そうした様子はない。

ごみ収集や植樹

 元海上自衛官土手義孝さん(74)=吉浦本町=は2003年、ボランティア団体「里山クリーンの会」を結成した。住民約40人とともにごみ収集や桜の植樹に取り組む。「税金に支えられ任務が全うできた。ささやかでも地域に貢献したかった」と言う。

 基地の町には現役隊員だけでなく、多くの海上自衛隊OBが根を張る。呉地方総監部によると、呉基地で退職した隊員の約4割が呉にとどまる。出身者もいれば、結婚など人生の節目を呉で迎えた縁で定住した人もいる。

 土手さんは1992年、国連平和維持活動(PKO)のためカンボジアに赴いた補給艦とわだ艦長を務めた。全国を転々とし、吉浦本町の実家から呉基地や第1術科学校(江田島市)に通ったのは通算6年弱。94年に54歳で退職し、ようやく実家に腰を落ち着けた。

 趣味の散策を楽しんでいて、県道のごみが気になった。市に撤去を掛け合ったが私有地であると難色を示された。ならばと、ボランティア組織を結成。公的団体として地域のため汗をかけば、行政の支援も受けやすいと考えたのだ。「事を動かすのは組織」。現役時代に学んだことだ。

折衝力と行動力

 市の助成金を引き出し、清掃道具を購入、投棄防止を訴える看板を立てた。土手さんが10年務めた自治会長を4月に継いだ真田泰治さん(69)は「折衝力や行動力は元自衛官ならでは」と感心する。

 OBでつくる隊友会の県呉支部は会員数約1300人で全国有数という。海自OBが中心の呉水交会には570人の会員がいる。

 掃海畑を歩んだ細谷吉勝さん(76)=和庄=は香川県出身。第1術科学校の教官だった77年、娘が呉市内の高校に進んだのを機に一戸建てを購入した。退職して3年後の94年、寺迫町自治会の副会長に就いた。

 「隊と同じ『ついて来い』の性分なので」と笑う細谷さん。自治会の旅行や行事を次々と提案し、会長になってからも地元の公園整備やとんど復活に力を入れた。市民協働を進める市も、行動力のあるOBを貴重な人材と受け止めている。

 官民、市民が海自隊を支える呉の町。隊員や元隊員も地域貢献に努め、隊のお膝元を支えていく。=第5部おわり(この連載は小島正和が担当しました)

(2014年9月6日朝刊掲載)

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