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連載・特集

海自呉地方隊60年 第6部 インタビュー編 <1> 海上自衛隊呉地方総監 伊藤俊幸氏 

市民の目に触れ襟正す

 集団的自衛権の行使を容認する閣議決定がなされ、日本の安全保障政策は大きな転換点を迎えた。世界を見渡すと、国際情勢の緊張感は増している。そうした中、呉の海上自衛隊と地元との関係は今後どうあるべきか。海自隊呉地方総監部のトップや市民、識者に課題や展望を聞く。(聞き手は小島正和)

  ―海自隊における呉基地の位置付けは。
 訓練主体だった20年ほど前に比べ、実任務が増えた。最前線基地とはいえないが、呉からもアフリカ東部ソマリア沖での海賊対処活動、日本周辺海域への監視活動などに出ている。呉地方隊は部隊を徹底的に支えていく。

  ―呉基地の浮桟橋Fバースが240メートルから420メートルに延び、増強との批判もあります。
 隊員や艦艇が増えたなら増強だが、そうではない。呉が母港の艦艇は39隻で国内5基地で最多。沖に係留していた船の乗員の居住環境を改善、任務を迅速にするためだ。それ以上でも以下でもない。

  ―呉市や市民とどう向き合いますか。
 海自基地のお膝元で財界や有志の組織的な後援会があるのは呉ぐらいという。市民の理解や温かさがあり、ありがたい。海軍遺産の支援、地域行事への参加など、できることは何でもする。

  ―隊員による事件やいじめなど不祥事が時に起きています。
 申し訳ないの一言。われわれは国民の信頼と支持なくしては動けない。着任以来「国民目線」を幹部と先任伍長クラスに言い続けている。

 隊員は「市民にどう見られているか」の視点を欠いている。毎週日曜の艦艇公開はこれまで、最低限の人員だけ残していたという。懸命に働く姿を見せることは隊への理解を深めてもらう絶好の機会であり、同時に自分たちがどう見られているか知る機会でもある。もっと市民の目に触れるよう改める。少々あらが見えてもいい。隊員が襟を正すきっかけになるのなら。

  ―集団的自衛権行使容認の閣議決定で、関連法の整備が進むと予想されます。任務はどう変わりますか。
 憲法解釈が変わったからといって「戦争になる」という論には賛同できない。自衛隊が他国へ行ってドンパチするのは憲法違反。自衛隊は国民と平和を守る組織だ。日本は原油や輸入品の多くを海運に頼っている。機雷掃海をはじめ、シーレーンの輸送路を円滑にする任務が考えられる。

  ―任務が多様化する中で市民への説明は。
 不安や反対の声が上がるのは説明が足りないから。事実を曲げず伝えていく。また隊員家族へのケアが重要になる。相談や悩みにきめ細かく対応できる態勢を呉で整えていく。

いとう・としゆき
 1958年生まれ。81年に防衛大学校を卒業。潜水艦はやしお艦長、海幕監理部総務課広報室長、統合幕僚学校長などを経て、8月から現職。海将。愛知県豊明市出身。

(2014年10月15日朝刊掲載)

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