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岩国のあした 市議選を前に <上> 基地問題 住民目線で「共存」議論を 安心安全策など実感遠く

 岩国市議選(26日投開票、定数32)が、19日に告示される。人口減少が進み、過疎・高齢化問題や少子化が浮き彫りとなる中、市の将来像をどう描くのか。在日米軍再編に伴い、米海兵隊岩国基地には2017年ごろまでに米空母艦載機移転が計画され、その判断があらためて問われる。市議選を前に、市の課題を探った。

 「極東でも有数の基地になる可能性がある中、市民、県民のみなさんはいろんな問題を抱えている」。9月18日、米海兵隊岩国基地を視察した菅義偉官房長官は福田良彦市長たちと懇談した後、現状認識をこう表現した。

 岩国市を訪れた政府高官が、「極東有数」の言葉を使って岩国基地の将来像に言及したのは初めてだ。在日米軍再編に伴う戦略的な重要性とともに、「沖縄の負担軽減」の名の下での存在感は確実に増しつつある。

 8月には米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)からKC130空中給油機15機が、隊員や家族約870人とともに移転。新しい市議の任期中の2017年ごろまでには、米海軍厚木基地(神奈川県)から空母艦載機59機が移る予定だ。

既に整備に着手

 市は艦載機移転受け入れの判断について「(国と交渉中の)安心安全対策や地域振興策の成果の先にある」とし、容認を明言していない。しかし国は移転に向け、愛宕山地域開発事業跡地で住宅や運動施設など米軍施設の整備に既に着手している。

 「基地機能の強化に歯止めがかからなくなっている。将来、巨大な負の遺産になるのでは」。移転に反対する「愛宕山を守る市民連絡協議会」の岡村寛世話人代表(71)の懸念は膨らむばかりだ。

 国が跡地を買い取って以降、移転に反対だった住民の一部に諦めが広がり、集会の参加者は半分以下の40人前後に減った。「移転後に『こんなはずではなかった』との声が出るはず。その受け皿にならなくては」。基地や愛宕山が刻々と姿を変えていく現実と募る不安のはざまで、反対運動を続ける。

もろい都市基盤

 県の試算では、岩国基地が地元に及ぼす経済効果は「昨年度で少なくとも370億円」という。基地内の工事費や市町への交付金の合計で、08~11年度の平均から倍増した。

 さらに政府は再編に協力する都道府県を対象とする新たな交付金を来年度設ける方針でいる。県への交付額は「5年で100億円」を軸に検討されているとみられる。

 「基地には協力してきた。だから住民の暮らしを置き去りにしないでほしい」。基地に隣接する車地区の柏本文康さん(68)は、市民が直接被る騒音などの被害より「カネ」の議論ばかりが先行していると感じる。

 8月6日の豪雨災害では土砂崩れに加え、各地で水路や川があふれた。長時間の渋滞も起こった。県内でも遅れがちな道路整備など都市基盤のもろさを指摘する市民の声は少なくなく、安心安全や利便性の向上を実感できないでいる。

 基地被害が現実となってから声を上げても遅いことは、沖縄や厚木を見れば明らかだ。いまのうちに何をするべきなのか、市が掲げる「基地と共存するまち」とは一体どんな姿なのか、市議会に住民目線での議論が迫られている。(野田華奈子)

岩国市が国に求める安心安全対策
 在日米軍再編を踏まえて市は2008年10月、国に43項目の要望書を提出。市は、米軍構成員に対する規律保持のための教育や訓練▽街路灯や街頭緊急通報システムの設置―など約3割の14項目を「達成」、恒常的な空母艦載機の離着陸訓練施設を岩国基地に建設しないことなど19項目を「進展中」としている。これとは別に、幹線道路網や基地周辺の川下地区の都市基盤整備などを重要課題と位置付け、09年3月から地域振興策として実現を求めている。

(2014年10月15日朝刊掲載)

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