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海自呉地方隊60年 第6部 インタビュー編 <3> 元海将補・歴史学者 平間洋一氏/非核市民宣言運動・ヨコスカ 新倉裕史氏

元海将補・歴史学者 平間洋一氏

国益守る威厳ある隊に

 ―最近の国際情勢と自衛隊の在り方をどう見ていますか。
 注視すべきは中国。指導部は民主化要求といった国内のプレッシャーを国外に転嫁させる。尖閣諸島周辺での緊張がそうだ。日本はいざ有事となった時、憲法の制約や反対の世論がある。自衛官が十分に戦える状態にあるとはいえない。

 ―海上自衛隊呉基地の役割と将来展望は。
 呉は後方支援センターだ。弾薬や燃料といった補給能力が高い。潜水艦教育訓練隊(呉市)第1術科学校(江田島市)など教育施設もある。任務は多様化しているが最前線にはなりにくいだろう。

 ―7月、集団的自衛権の行使容認が閣議決定され、安全保障の在り方が変わろうとしています。
 平和はパワーバランスがあってこそ維持される。ウクライナ情勢をみても、外交は軍事力を背景にして力を持つ。日本も確固たる軍事力を背景とした「強国」であるべき。「他国に攻め入る」という意味では決してない。

 反基地を訴える人たちには「話し合いで戦争を抑止できた例があるだろうか」と問いたい。理想だけで国益は守れない。自衛官はリアリストだ。

 ―海自隊員は地域や市民にとってどうあるべきですか。
 現役時代は「愛される自衛隊」がモットーだった。今もその傾向にある。愛されるだけでなく、威厳がある隊であってほしい。災害派遣の任務が増えるのは仕方ないが、本分は国防。有事に役立たなくてはいけない。

ひらま・よういち
 1933年、横須賀市生まれ。57年、防衛大学校卒業。護衛艦ちとせ艦長、呉地方総監部防衛部長などを経て88年、海将補で退職。89年から99年まで防大教授を務め、現在は歴史学者として活動する。法学博士。

非核市民宣言運動・ヨコスカ 新倉裕史氏

軍備減 災害支援特化を

 ―呉と同じ海上自衛隊基地がある横須賀市(神奈川県)でどんな活動をしていますか。
 自衛官の声を聞くことに力を入れている。電話相談窓口を開設したり、官舎にアンケートを投函(とうかん)したり。集団的自衛権の行使容認、日米防衛協力指針(ガイドライン)改定などにより自衛隊が何でもできるようになる。自衛官にも「そんな任務聞いていない」といった声がある。生の声こそがわれわれにとってのリアリティーだ。

 ―単に「基地反対」と訴えるだけではないのですね。
 平和団体にありがちな「1か0か」の議論は説得力を欠く。われわれがあってはならないと主張する基地には隊員という生身の人がいる。正義を振りかざさず対話を心掛ける。

 ―軍備をなくしたら外国に攻められるとの主張もあります。
 そうした声は否定しないし無視してはいけない。対案として尖閣問題を例にすれば、まず海上保安庁が前面に立って警察権を行使する。自衛隊は専守防衛に徹する。軍備を減らし余った予算は、自衛隊を災害支援に特化した組織に変えていくために使えばいい。

 ―横須賀から呉の町をどう見ますか。
 旧軍港市として海軍遺産や海自施設を観光の柱にしている点で共通する。観光に頼るのは麻薬のようなもの。集客や売り上げのためにどんどん軍事色を強めざるを得なくなる。戦後、市民が一度は拒否した基地に寄り添って生きる道が良い選択だったのか。みんなで考える必要がある。(聞き手はいずれも小島正和)

にいくら・ひろし
 1948年、横須賀市生まれ。71年、市民団体ヨコスカ市民グループ(現非核市民宣言運動・ヨコスカ)に参加。2006年からは「原子力空母母港化の是非を問う住民投票を成功させる会」共同代表。

(2014年10月17日朝刊掲載)

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