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連載・特集

緑地帯 私とクルドとイラク 玉本英子 <1>

 「ジャーナリスト」として仕事を始めて20年になる。もともとはデザイン会社で働いていた。洋菓子店のパンフレットなどを作るのは楽しく、報道の仕事など考えたこともなかった。

 それが変わるきっかけになったのは1994年3月、家のテレビでたまたま見た海外ニュースの映像だった。ドイツでデモ隊の男性が自分の体にガソリンをかぶり、火を付けて、機動隊の列に突っ込んだ。衝撃を受けた。

 ニュースは、クルド人移民が、トルコでのクルド人抑圧に抗議して焼身決起したと伝えていた。クルド人について本で調べると、トルコ、イラク、シリア、イランなどにまたがる地域に暮らす独自の言語と文化を持つ民族、とある。

 学生運動もよく知らない世代の私。焼身決起など理解できなかった。そうまでして訴えたかったことは何だったのか…。

 半年後、私は欧州への旅を思い立ち、クルド人に会ってみることにした。オランダにいた友人に聞くと、オランダにもクルド人移民が大勢いて、英語も通じるという。アムステルダムで彼らが集まるカフェに通い、客たちから話を聞くことにした。

 店では、ひげを生やした目つきの鋭い男たちがチャイをすすっていた。見掛けは怖いが、話してみると人懐っこい。

 ある日の夕方、長いコートを着た中年男性が店に入ってきた。やけどの痕で顔が赤くただれている。テレビで見たあの人だった。(たまもと・えいこ ジャーナリスト=大阪府豊能町)

(2014年9月11日朝刊掲載)

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