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連載・特集

廃炉の世紀 第1部 先進地欧州 <3> 処分地選定(ドイツ)

地元反対 在り方再考

次代へ先送りに危機感

 高レベル放射性廃棄物を地下深く埋める最終処分場は、世界にまだ一つもない。10万年単位の管理が必要とされる「核のごみ」をどこに捨てるのか。2022年までに全原発を閉鎖する方針のドイツでさえ、答えを見いだせずにいる。

 ドイツ北部、ゴアレーベン。松林の中に鉄条網に囲まれた施設群がある。その地下840メートルの岩塩層には、総延長10キロ近い坑道が走る。1979年に旧西ドイツ政府が最終処分の候補地として調査を始めて以来、最有力候補であり続けてきた。だが昨年、「脱原発」を掲げる政権は計画を白紙撤回した。

 背景には、福島第1原発の事故で激しさを増した反対運動がある。既に高レベル放射性廃棄物の中間貯蔵施設もあるゴアレーベンでは11年、過去最大規模の約2万5千人がデモを実施。ベルリン在住の日本人などの市民グループ「さよなら原発ベルリン」の伊藤悠希さん(34)は「次の世代に責任を押しつけてはならない、という真剣さがあった」と当時を振り返る。

 「ドイツは、ゼロから最終処分場の在り方を見直すことを選んだ」。連邦議会が設置した高レベル放射性廃棄物処分委員会のミヒャエル・ミュラー委員長は言い切る。学者や宗教家、労働組合や経済団体の代表たち34人の委員が、15年までに新たな候補地を選ぶ基準を作る。その後、31年までに候補地を決めるシナリオである。

 だが「10万年単位の安全を評価するのは非常に難しい」(ミュラー委員長)。ドイツには、最終処分への信頼を損ねた苦い経験もある。ゴアレーベンと同じ州にあるアッセ研究鉱山。70年代後半までに低中レベルの放射性廃棄物が試験的に地下の岩塩層に搬入されたが、地下水の浸水が発覚。閉鎖が決まった。廃棄物をいかに取り出し、どこへ運ぶかは決まっていない。

 環境保護団体、グリーンピースベルリン政策代表部のトビアス・ミュンヒマイヤー政策副代表は「高レベル放射性廃棄物は堅固な容器に入れて各原発などで暫定的に保管し、あらゆる可能性を国民全体で議論すべきだ」と期限を切った委員会での議論に疑問を示す。

 廃炉作業が進む北部のグライフスバルト原発では、5千本以上の使用済み燃料が巨大容器に入れられ、中間貯蔵施設に並んでいた。ドイツ国内で保管されている使用済み燃料は計約6千トン以上。このまま処分の道筋を決められなければ、原発が消えた後の世代に重い決断を委ねることになる。

 半世紀以上、脱原発運動に取り組んできたミュラー委員長には強い危機感がある。「多くの国民が脱原発で問題が解決したと思っているが、大きな間違いだ。先送りはもう許されない」

ドイツの高レベル放射性廃棄物の処分
 原発で生じる使用済み燃料と、使用済み燃料を英仏で再処理した「ガラス固化体」を国内で地層処分する方針。使用済み燃料は原則、最終処分場に運ぶまで、発生した原発内で貯蔵する。ガラス固化体はゴアレーベンの中間貯蔵施設が受け入れていたが、2013年3月、政府と州の合意に基づいて搬入停止が決まった。

(2014年10月30日朝刊掲載)

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