×

連載・特集

廃炉の世紀 第1部 先進地欧州 <6> 減原発(フランス)

政策転換 20基閉鎖も 選別判断 基準は不透明

 米国に次いで世界2位の原発大国フランス。58基の原発を持ち、総発電量の8割近くを原子力で生み出す。福島第1原発事故を受けて、「減原発」に政策を転換しようとしていた。

 国連気候変動サミットを前に9月、パリ市内で地球温暖化対策を進めるようアピールした大規模デモ。若者や家族連れなど約2万5千人が道を埋め、熱気に包まれた。

 「これでも原発を推し進めるというの?」―。一角で1人の女性が、原発推進のチラシを配っていた男性に激しく詰め寄った。手には原爆被害や放射能汚染をテーマにした1冊の本。「『フクシマ』を経験した今、原発はなくさなければならない」と主張する彼女に、男性も「温暖化対策には原発が必要だ」と強く反論した。

 資源が乏しく、伝統的に原発への国民の支持が強いフランス。原発なしではエネルギー自給率は現状の5割から1割程度に落ちる。原子力をエネルギー安全保障の柱に据え、原発の是非が議論になることは少なかった。だが、福島第1原発の事故が状況を変えた。

 2012年の大統領選で当選したのは、原発推進のサルコジ前大統領ではなく、原発削減を訴えたオランド現大統領だ。国内最古で隣国からの批判も強いフェッセンハイム原発など老朽原発を閉鎖し、25年までに原子力依存度を50%にする政策を掲げる。目標達成には、20基以上の原発を廃炉にする必要がある。

 どの原発をいつ廃炉にするか―。仏エネルギー・気候変動総局のシャルル・ルエ原子力産業本部副本部長は「決定権を持つのは、国ではない」と明かす。実は日本と同じくフランスも、政府は原発を廃炉にする権限を持っていない。

 老朽原発の選別の判断は、00年に民営化され、原発を運営するフランス電力公社(EDF)が下すことになる。日本は原発の運転期間を「原則40年」と決めたが、フランスには原発の寿命を制限する法律はない。「老朽原発は電力会社にとって長く動かすほど利益が出る」(ルエ副本部長)ため、EDFは廃炉に慎重な姿勢を崩さない。政府が廃炉を命令する形を取るフェッセンハイム原発についても、EDFは賠償請求の意向をちらつかせる。

 EDFは今後、老朽化の度合い、原発「延命」のコストと利益などを考慮して、廃炉を決めるとみられる。廃炉の基準は現時点では不透明で、「事業者任せ」の側面が強い。「EDFは財政難で、廃炉のための積立金にも手を付けて一部を取り崩した。廃炉が進められるかは不透明だ」。90年代のシラク政権下で環境相を務めたコリーヌ・ルパージュさん(63)はこう指摘する。

フランスの原発政策
 石油危機を機に1974年、原子力発電への投資を促す計画を発表。原発の大規模開発を加速し、エネルギー自給率を25%から50%程度まで高めた。原子力産業の雇用者数は40万人とされる。アレバ社が開発した次世代炉型の欧州加圧水型炉(EPR)の新設計画は、福島の事故後も変えていない。

(2014年11月4日朝刊掲載)

年別アーカイブ