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連載・特集

廃炉の世紀 第1部 先進地欧州 <8> 労働環境(フランス) 

安全守る監視 不可欠 民営化 下請け比率拡大

 古城が点在するロワール川沿い。シノン原発は1963年、同国初の商業原発として稼働した。旧式の計3基は90年までに運転を停止。新たに計4基が80年代に運転を始め、約50万世帯に電力を届けている。

 「膨大な数の作業員が街に滞在し、にぎわいをもたらしてくれる」。見学者向けの情報センターで、地元出身という広報担当の女性は強調した。原発の運転と大規模な廃炉が並行して進むシノン原発。各地の原発を転々としている労働者が一挙に集まり、ピーク時は4千人が働くという。

 原発作業員への労災認定は職務上の義務と倫理を逸脱している―。83年からシノン原発で産業医を務めていたドミニク・ユエズ医師(64)は昨年、ある作業員の労災認定をめぐって地元医師会の倫理委員会にかけられた。訴えたのは、作業員を雇う下請け企業だった。

 企業が直接医師を訴えるのは珍しく、ニュースでも取り上げられた。「約30年勤めてきて初めてだ」とユエズ医師。診断したのは原発や核施設での勤務を経て、シノンに転属になった30歳代の男性。重度のうつ状態を「仕事のストレス」と診断したことが、労災を嫌う企業の反発を招いた。

 ユエズ医師が懸念するのは「労働者を軽んじるような企業の姿勢」だ。「私は原発に賛成でも反対でもない」と断った上で、こう指摘する。「フランス電力公社(EDF)の民営化で労働環境は悪化し、安全性も不確かになっている」

 欧州で電力自由化が拡大した2000年代、政府はEDFを段階的に民営化した。同国最大の労働総同盟(CGT)によると、コスト削減を優先した外注が増え、下請けの比率が5割まで拡大した。特に、廃炉に欠かせない除染作業や維持管理では、約9割を低賃金の下請け労働者が担うという。

 問題は「熟練の職人が新人を育てる時間を失い、短期労働者が増えて技術や知識の継承が難しくなった」(ユエズ医師)ことだ。廃炉には高い放射能汚染の部品の表面を削り取ったり、切断したりする作業が必要だが、労働者が微粒子を吸い込んで内部被曝(ひばく)するリスクも高い。

 労働者の安全を確保するため、防護服の高機能化や作業時間の厳しい管理などに加え、仏原子力安全局(ASN)も監視をしている。だが、ユエズ医師は「労働者が健全に働けているか、作業手順がなおざりになっていないか、しっかり見ていく必要がある」と説く。

 誰が廃炉の安全を守るのか―。「作業の安全、労働者の安全を最大限守るための仕組みはある。問題は、それが機能しているかを社会全体で監視できるかだ」

フランス電力公社(EDF)の民営化
 国有会社として1946年設立。欧州の電力自由化で段階的に民営化が進み、2004年には上場した。グループ全体の従業員数は約16万人。英国など国外でも火力、原子力、風力などの発電事業を展開している。

(2014年11月6日朝刊掲載)

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