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連載・特集

廃炉の世紀 第1部 先進地欧州 <10> 対話(英国・フランス・ドイツ) 

市民参加で方針決定 政府・企業と対等の立場

 廃炉や放射性廃棄物の処分の問題をめぐり、市民はどうやって未来を選ぶべきか。先進地欧州は、市民が議論に参加する仕組みづくりを目指している。

 100年近い時間をかけて廃炉を進める英国ブラッドウェル原発。「冷戦下の原子力は完全なシークレット(秘密)だったが、今は国民の支持が必要と意識し情報共有を強めている」。政府、廃炉を担う企業、地元住民の対話の場で議長を務めるブライアン・メインさん(75)は強調する。

 廃炉の手続きで政府側の方針を変えさせたこともある。「全て思い通りになるわけではないが、変えられると思える関係が大事だ」。方針が決まる過程に市民が参画する意義を説く。

 原子力政策に「秘密主義」との批判もあるフランスも、法律に基づき、原発の全ての立地地域に「地域情報委員会(CLI)」を置き議論を交わしている。

 市民による「監視」は、政府や企業との対等な対話の基礎にもなる。フランスの核施設周辺で空気中の放射線量などの測定を続ける非政府組織「クリラッド」。チェルノブイリ原発事故が起きた1986年に発足し、福島第1原発事故後の福島でも活動した。会員数は6千人。ローラン・デボルド代表は「国や企業から独立して活動し、市民に事実を伝えるのが役割だ」と説明する。

 廃炉は「通常運転時と違い、予想しない事態が起こりやすい」として、作業の開始前から中長期的に測定して変化を監視することを勧める。国や電気事業者は「原発の事故や放射能漏れの影響を低く見せようとしがち」(デボルド代表)。クリラッドは科学的な測定結果を突き付けて、見解を修正させてきた。「私たちは反原発団体ではない。主張に信頼を得るには、中立性が何よりも重要になる」

 「核のごみ」の最終処分を考えるとき、対話の重要性はより増す。2022年までの脱原発を掲げるドイツ。高レベル放射性廃棄物の最終処分場をめぐっては、最有力候補だったゴアレーベンを白紙撤回し、候補地の選び方をゼロから議論している。

 「いつかどこかに決めなければならないが、誰も進んで話をしたくない。先送りにされ続けてきた」。ベルリン自由大環境政策研究所のミランダ・シュラーズ所長は指摘する。委員を務め、政府に脱原発を勧告した倫理委員会でも核のごみの問題は議論となった。「脱原発を決めても解決はできないし、100パーセントの賛成が得られる選択もない。いかに市民が議論を尽くせるかにかかっている」

 私たちの国が原発をゼロにすることを選んでも、選ばなくても、廃炉という課題は避けられない。原子力発電が始まった60年前には議論されなかった放射性廃棄物の問題に向き合う覚悟もまた、求められている。(山本洋子)=第1部おわり

(2014年11月9日朝刊掲載)

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