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社説・コラム

『書評』 郷土の本 「似島1918」 戦争がもたらす ある捕虜の悲劇

 広島県職員の熊野良樹さん(59)=広島市佐伯区=が、小説「似島1918」=写真=を刊行した。広島湾に浮かぶ似島で、1918年に起きた捕虜収容所の逃走事件を題材にした物語。第1次世界大戦の開戦から100年の節目に、ある捕虜の知られざる歴史をひもとく。

 主人公は、オーストリア軍人のモーラヴェク。同大戦中にロシア軍の捕虜となるが、シベリアの収容所を脱走。欧州や米国を経て横浜港で身柄を拘束される。日本に至るまでの足跡や似島での逃走劇。謎めいたモーラヴェクの密命が徐々に明かされていく。

 熊野さんは「モーラヴェクの正体に迫るに連れ、彼の人生も戦争がもたらした悲劇の一断面だと感じた。歴史の波に翻弄(ほんろう)される人たちの姿を読み取ってもらえたら」と話している。

 223ページ、1296円。広文館(中区)、南々社(東区)。

(2014年12月7日朝刊掲載)

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