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連載・特集

廃炉の世紀 第2部 日本の選択 <3> 技術開発(福島第1原発) 

ロボ実用化 地元一丸 悪条件の作業 知恵絞る

 数千人規模による汚染水の処理作業が続く東京電力福島第1原発。「分厚いコンクリートだ」。廃炉作業を視察したロボット開発のアイザック(福島県会津若松市)の馬場康友さん(61)は、放射線を防ぐための構造物の頑丈さに驚いた。仮にロボットを遠隔操作しようとすると、その頑丈さは無線通信の障害になる。「予想以上に工夫が必要になる」と気を引き締めた。

 アイザックは、従業員8人のベンチャー企業。米子市内に技術研究所を構えるロボット製造のテムザック(福岡県宗像市)が東日本大震災後の2012年、会津中央病院を運営する財団法人などと共同で設立した。医療福祉が中心だったが、原発で作業する廃炉ロボットの開発に参入した。調査などに使う無線ヘリコプターのバッテリーを、無人で交換する装置の開発も進めている。

 高線量で人が近づけないエリアが多い福島第1原発で廃炉を進めるには遠隔操作ロボットが欠かせない。汚染測定や除染、機器の切断や補修…。凹凸や高低差の大きい通路など、条件が悪い現場で作業を担う。

 「中小企業が連携すれば、会津でロボット産業を興せる」と馬場さんの長男でIT技術者の法孝さん(28)。復興にはものづくりの力が必要と感じている。

 原発の視察は、地場の製造業など115社・機関で昨年設立した「福島県廃炉・除染ロボット技術研究会」の活動。技術を持ち寄って共同受注も目指す。「廃炉は長い道のり。チャンスに変えたい」と県ハイテクプラザ(郡山市)の関根義孝企画連携部長。震災後、県内では原発関連で7千人以上が失職し、新産業の創出は悲願でもある。

 原子力産業は中小企業が単独では食い込みにくい。2年前にあったプラントメーカーなどと地場企業の商談会では、一件も受注は成立しなかった。

 地域が追い風として期待するのが、日本原子力研究開発機構が、福島第1原発にほど近い楢葉町で建設を始めた「遠隔技術開発センター」。原子炉建屋内で作業するロボットなどを開発するため、原子炉の一部を原寸大で再現した模型や仮想現実(バーチャルリアリティー)技術の設備を整備する。地場企業の技術支援も、重要な役割の一つだ。

 広く「災害対応ロボット」と捉えれば、世界の市場は右肩上がりだ。軍事用プルトニウムの精製で深刻な放射能汚染が広がった米国ハンフォードで、浄化技術の研究開発が経済を活気づけた事例もある。

 福島県は今も、約12万7千人が避難生活を続ける。14歳以下の人口は、震災前から1割強も減った。アイザックが描くのは、ロボットで産業城下町をつくり、若者に働いてもらう未来図だ。法孝さんは信じる。「ロボットで放射能に打ち勝つ。ユニークな産業があれば若い人も戻ってくる」

廃炉ロボット
 災害対応ロボットをベースに、放射線量の高い環境でも作業できるように、耐放射線や遠隔操作の機能を強化している。1979年の米スリーマイルアイランド原発事故、99年の東海村臨界事故を機に、国内で開発の機運が高まった。ただ、福島第1原発事故直後は、米国の軍用偵察ロボットなど海外製が中心になって写真撮影や線量測定に当たった。

(2014年12月8日朝刊掲載)

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