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漫画「はだしのゲン」 「学校に置くべき」9割 武蔵大教授大学生調査 「想像力を養う」

 平和教材としても使われている故中沢啓治さんの漫画「はだしのゲン」について、大学生の9割が「学校図書館に置くべきだ」と考えていることが、武蔵大(東京都)の永田浩三教授(テレビジャーナリズム論)のアンケートで分かった。2013年に松江市教委が市内の小中学校の学校図書館で「ゲン」の閲覧制限をした問題を受け、同大と明治大の1、2年生計451人から14年11月に回答を得た。(石川昌義)

 「ゲン」を読んだことがあるか、との問いには188人(41・7%)が「読んだ」と答えた。「読んだけれども内容は覚えていない」の46人(10・2%)を含めると、読書経験者は過半数に達した。初めて読んだ時期の平均年齢は10・8歳。読んだ場所は学校図書館が234人中、178人(76・1%)を占めた。

 永田教授は昨年、「ゲン」を教材に講義をした。学生が「ゲン」を再読したり、初めて「ゲン」に触れたりした結果、「学校図書館に置くべきだ」と答えたのは403人(89・4%)に上った。理由として「戦争を市民の側から描写した数少ない資料」「あらゆる立場から戦争を考えるべきだから」「目を背けたくなるような現実があると知ることが、想像力を養う」との記述があった。

 一方、「置くべきではない」は33人(7・3%)。「刺激が強い」との理由が目立ち、「偏った過激な意見が多い」との指摘もあった。15人(3・3%)が無回答だった。

 「ゲン」が何を伝えるために学校図書館に置かれているか、との質問には複数選択で、「原爆の悲惨さ」が392人と最多。戦争が起きた理由(141人)▽たくましく生きること(130人)―と続き、多様な読み方がうかがえる。

 また、終戦直後に占領軍が行ったプレスコード(検閲)について、245人(54・3%)が「知らない」と回答。表現の自由が戦後も制限され、被爆の実態が隠されていた史実が若い世代に知られていないことも浮き彫りになった。

 松江市での閲覧制限を機に「ゲン」を読んだ学生が質問内容をまとめた。武蔵大社会学部1年の大城あずささん(19)=埼玉県川越市=は「小学生のころは敬遠していた『ゲン』を初めて読んで、家族愛や原爆孤児の痛々しさが新鮮だった。学校図書館からの排除は、子どもたちの読書の機会を奪い、多様な視点に触れることを妨げる」と話す。

学生の理解は的確

 日本図書館協会図書館の自由委員会の西河内靖泰委員長の話 圧倒的だった「置くべきだ」との意見の背景に、「ゲン」の価値への評価だけでなく、「読む、読まないは子どもの自由」「読書の機会を奪うことが問題」との指摘が多くあった。学生たちの作品読解力や図書館の存在意義への理解は的確だ。

「はだしのゲン」閲覧制限
 松江市教委が2012年12月から13年1月にかけて、「暴力的描写」を理由に市内の小中学校の学校図書館にある「ゲン」の閲覧を制限するよう学校側に求めた。同年8月に問題が発覚。市教委は制限を撤回した。大阪府泉佐野市では14年1月、「差別的表現がある」との市長の意見を受けた市教委が学校図書館の本を一時回収した。

(2015年1月14日朝刊掲載)

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