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被爆の惨状 にじむ墨絵 一気に3作品 87歳画家宮川さん「記憶が薄れる前に」 

 被爆者で日本画家の宮川啓五さん(87)=広島市西区=が、記憶の中に封じていた被爆の惨状を、3枚の作品に描き出した。忘れられずにいたあの日の光景が、老いでかすんでしまうことに不安を覚えたためだ。生を奪われた人たちの無念さを、力強い筆遣いで表現している。(鈴中直美)

 熱線に服と体を焼かれ、黒い水たまりに口を付ける少女、防火用水に折り重なる無数の遺体、雁木(がんぎ)で赤ん坊を抱く母親たちをそれぞれ変型120号に収めた。「傷ついた体に色を付けるのがかわいそうで」と、あえて墨絵にした。

 広島工業専門学校(現広島大工学部)の2年生だった宮川さんは、現在の安佐南区西原にあった自宅から学校へ向かう途中、爆心地から約3キロ北の西区大芝付近で被爆した。親戚や知人を捜すため、2日後の8月8日に川舟で市中心部に入り、多くの遺体を目の当たりにしたという。

 日本画家で文化勲章を受けた故岩橋英遠に師事。原爆の絵は、被爆50年だった1995年から描くようになった。今回の3作品は、むごすぎてこれまで描けなかったが、「記憶が薄れる前に」と思い立った。覚悟を決めると、せきを切ったように筆が進み、1作品につき約4時間で一気に仕上げた。

 いずれも7月31日から廿日市市下平良のはつかいち美術ギャラリーで開く個展に出品する。宮川さんは「あの日、見た子どもたちはもっと生きたかったはずだ。絵を見た人の心の中でよみがえらせることが平和につながる」と話している。

(2015年2月26日朝刊掲載)

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