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【ナガサキ情報~西日本新聞から】長崎の被爆者谷口さん、怒りと失望

最後の訪米「裏切られた」 NPT再検討会議決裂

 人類と核兵器は共存できないと、70年間訴えてきても、まだ届かないのか。核拡散防止条約(NPT)再検討会議が決裂したことを受け、長崎原爆の被爆者で長崎原爆被災者協議会会長の谷口稜曄(すみてる)さん(86)らが23日、長崎市で記者会見し、「裏切られた」と怒りと失望をあらわにした。今回の再検討会議で、世界に核廃絶を訴える「最後の機会」と訪米して講演した谷口さんをはじめ、被爆地・長崎では、それでも歩を止めるわけにはいかないとの思いが広がった。

 「被爆国の日本政府が一番悪い」。谷口さんは厳しい言葉で、米国の「核の傘」に依存する姿勢を変えない日本政府を批判した。「決裂は落胆するが、残りの命で運動を続け、政府が核兵器にノーという国にしなければならない」と、力を振り絞るように語った。

 昨年、腰の手術を受けた谷口さん。今回は体調が優れない中での訪米だった。日本原水爆被害者団体協議会で活動を共にした被爆者2人は体調不良のため訪米できなくなった。「動ける被爆者はますます減っていく。私も運動を続けることができるか分からない」

 同席した被爆2世の柿田富美枝さん(61)も「高齢で訪米できなかった被爆者の声も背負ったつもりだった。(決裂は)被爆者の願いを踏みにじったと思う」と語った。

 被爆70年の節目の年。長崎では何とか核廃絶へのかすかな光が見えるのではとの期待もあった。しかし、残念な結果に長崎市の田上富久市長は「非常に失望している。NPT体制への信頼が揺らぐ」と危機感を募らせた。

 谷口さんは会見の間、一通の手紙を手元に置いた。

 訪米中に日本人学校に通う9歳の男の子がホテルの部屋に来て、熱心に話を聞いていった。帰国後に母親から届いた手紙には、男の子が学校で被爆者の話をした時、友人が目に涙をためていたことを報告し、「少しでも多くの人に広めていきたい」と記されていた。「期待通りにはならなかったが、世界の人に伝わっただろう」。小さな継承者が生まれた手応えを感じた。谷口さんは「今後は世界から被爆地を訪れる人を大事にし、地球から核兵器がなくなる兆しを見届けるよう頑張りたい」と話した。(西日本新聞・田村真菜実)

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