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基地のまちは今 動きだす岩国米軍施設整備 <上> 愛宕山 前例なき空間出現へ 住宅・運動エリア着々

 米海軍厚木基地(神奈川県)からの空母艦載機移転が2017年ごろまでに迫る岩国市の米海兵隊岩国基地。市中心部の愛宕山地区では、国が造って米軍に提供する住宅や運動施設の工事が本格的に始まろうとしている。在日米軍再編の拠点として岩国は何を新たに担い、市民は米軍とどう向き合うことになるのか。厚木基地周辺の現状も交えて課題を探る。(野田華奈子)

 岩国基地から西へ約3キロの丘陵では今、2年後にも予定される岩国基地への艦載機59機の移転受け入れに向け、米軍施設の整備が進む。そこへ新たに造り出される「まち」の姿を想像するのは難しい。

 中国四国防衛局の15年度の発注予定には、262戸を予定する2階建ての米軍家族住宅や陸上競技場などの新築工事が挙がる。5月末に敷地造成を終え、7月末以降に着工の見通しだ。艦載機移転に関連し、岩国基地内と合わせて同年度に実施される工事の予算額は過去最多の1019億円に上る。

1000人 移住予定

 部隊移転に伴い、岩国に移り住む米軍人や家族たちは約3800人。このうち愛宕山地区に暮らす人数は、住宅戸数から約千人程度とみられる。

 さらに、米軍と市民の共同使用を想定して新築される運動施設は国内初。米国防総省幹部が「日本の米軍再編の中心」と表現した岩国に、巨額投資によって前例のない空間が出現する。在日米軍再編に理解を示す市民団体「岩国の明るい未来を創る会」の原田俊一会長(82)は「岩国の将来的な発展を秘めたエリアになる」と期待を寄せる。

 ここではかつて、山口県と市が「愛宕山地域開発事業」という住宅開発を計画。豊かな自然環境を生かしたニュータウンになるはずだった。山を削った土砂で基地沖を埋め立て、騒音軽減のため滑走路を沖合に移す計画と連動した。

 日米は06年、在日米軍再編に合意。沖合移設は結果的に艦載機移転の受け皿となった。開発事業は地価低迷などで09年に頓挫。国が米軍住宅化を提案して跡地を引き取った経緯がある。

 米軍家族住宅と運動施設は完成後、国から米軍に提供され、通常は日米地位協定によって米軍が管理権を持つことになる。

「市民守って」

 防衛局が2月に開いた市民向けの説明会では、侵入や機密探知などに対する罰則を定める日米地位協定の刑事特別法の適用区域になるのか参加者から質問が出たが、防衛局は「適用は個別具体的な状況で判断される」と回答。運用のルールについては市と国、米軍の3者で協議するとした。

 「隣人」となった米軍人やその家族との間でトラブルが起きた場合の対応に、不安を抱く市民は少なくない。愛宕山地区に近い牛野谷南第1自治会の天野一博会長(64)は「せめて市は、市民を守り抜く危機管理意識を持ち、国や米軍に伝えてほしい」と訴える。

 市は艦載機移転の受け入れについて、08年に国へ要望した43項目の安心安全対策や地域振興策の進展の先に判断があるとする。いまだ全ての要望が達成されない中で、現実的には後戻りできない工事が愛宕山で進む。

愛宕山地区の米軍施設整備
 米軍家族住宅エリア(約28ヘクタール)と運動施設エリア(約16ヘクタール)からなる。家族住宅は262戸で、運動施設エリアには野球場や陸上競技場、アリーナを備えたコミュニティーセンターなどを配置。整備主体の中国四国防衛局によると、運動施設エリアは原則、身分証などのチェックなしに市民が利用できる形で運用するという。5月末で敷地造成工事が完了した。

(2015年6月7日朝刊掲載)

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