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連載・特集

基地のまちは今 動きだす岩国米軍施設整備 <下> 共存の行方 軍民使用 運用手探り 

「池子の森」協定が先例

 豊かな緑に、野鳥のさえずりが響く。神奈川県逗子市と横浜市金沢区にまたがる池子米軍家族住宅地区(288ヘクタール)。その一角のスポーツエリアでは、400メートルトラックで市民が汗を流し、隣の野球場で住宅地区の米国人とみられる子どもが試合に興じていた。ランニングをしていた40代の男性は「環境がいいのでよく来る」という。

自由に出入り

 米海軍横須賀基地(神奈川県横須賀市)などに勤務する軍人や家族約3千人が暮らす広大な敷地のうち、逗子市側の40ヘクタールが市民と米軍の共同使用となった。2月、このうちスポーツエリアが市管理の「池子の森自然公園」として先行オープン。開園時間内は市民が自由に出入りして施設を利用できる。今秋以降はキャンプ場に使われていた緑地エリアも開放される。

 米海軍厚木基地(神奈川県大和、綾瀬両市)から米海兵隊岩国基地への艦載機部隊移転が計画される岩国市。愛宕山地区に本年度から国が米軍家族住宅とともに建設し、米軍に提供する運動施設も池子地区のような軍民の使用を想定する。

 岩国市の場合、共同使用を前提に新設される点で逗子市と異なる。仕様に対する市の要望も全てかなえられた。昨年度まとめた市総合計画で初めて「基地と共存するまち」を掲げ、運動施設を活用して日米交流を進めることも明記する。

苦情報告なく

 逗子市では1980年、遊休化した池子地区の弾薬庫への米軍住宅建設計画が表面化。賛否をめぐる対立が市を二分してきた。こうした経緯から市は一貫して「全面返還が最終ゴール」との姿勢を崩していない。共同使用は米軍住宅も含めた全面返還へのステップとの位置付けだ。

 日本政府の「思いやり予算」で建設された提供施設は、日米地位協定の定めで共同使用が可能だ。実際の運用は地元自治体と国、米軍が話し合って決める。逗子市では11年から3者で協議を重ね、協定を結んだ。

 協定書では、在日米軍の活動を妨害しない▽市が定期検査や維持管理の責任を負う―などを定め、細かい公園管理運営の覚書も交わした。事件事故が起きた際には日本の警察が対応。米軍人が関係する場合は米軍の憲兵が出動するという。

 同市によると共同使用に伴うトラブルや苦情の報告は現時点ではない。協定や覚書にない事態が発生すれば「話し合って一致点を見いだす」とのスタンスだ。

 愛宕山地区の運動施設の利用について岩国市は、逗子市と同様に国、米軍と協議を始めた。だが、「愛宕山を守る市民連絡協議会」の岡村寛世話人代表(71)は「国は『協議中』と言うだけ。どこまで自由に使えるのか分からない」と工事が先行する状態に疑念を抱く。

 「箱物ができてもそれを生かすのは人」。中国四国防衛局が2月に開いた市民説明会で、オブザーバー参加した福田良彦市長(44)は国際交流のまちづくりを説いた。市民の懸念を拭い去る説明を惜しまず、具体的な安心安全対策を米軍と国から引き出す。それが「共存」の大前提となる。(野田華奈子)

(2015年6月9日朝刊掲載)

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