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基地のまちは今 オキナワと本土 距離感 イワクニとの関わり 現地ルポ 

自治理念 反する地位協定

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設問題に揺れる沖縄県を、日本記者クラブの取材団に参加して9~13日に訪れた。この問題で翁長雄志(おなが・たけし)知事は安倍政権と対立し、沖縄に在日米軍基地の大半が置かれた日本の戦後を問い直そうとする。沖縄の現状や米海兵隊岩国基地(岩国市)との関わりから、基地と地方自治を考えた。(野田華奈子)

 宜野湾市の中心部に延びる約2・7キロの滑走路。普天間飛行場には2012年に配備され、岩国基地にも飛来する垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが並ぶ。

 1996年の日米の基地返還合意から19年。04年には近くの沖縄国際大に米軍ヘリが墜落、炎上した。今も返還は実現せず、市民生活は脅かされ続ける。

飛行制限守られず

 米ハワイ州で5月に死者2人を出したオスプレイ着陸失敗事故について、同飛行場でオスプレイの安全管理を担当するクリストファー・デマース少佐は「事故は完全に避けることはできない」と明言。詳細な原因調査の結果が今後の安全運用につながると説明した。

 沖縄だけでなく、岩国を含む国内の米軍基地では、日米で取り決めた市街地上空の飛行制限などが守られていない。11日には普天間飛行場の騒音をめぐる訴訟で、那覇地裁沖縄支部は国に対し周辺住民に計7億5400万円を支払うよう命じた。こうした実態にもデマース氏は「(合意に)法的な拘束力はない。われわれの任務と安全性を優先する」との認識を示す。

 普天間飛行場からは昨年8月、KC130空中給油機部隊15機が岩国基地へ移転した。宜野湾市の佐喜真淳市長は「騒音被害はゼロではないが少なくなっている」とし、一定に負担は軽減されたとみる。一方、政権と沖縄の対立に質問が及ぶと複雑な表情を浮かべながら、普天間飛行場の固定化に強い危機感を示した。

 普天間問題の「唯一の解決策」として辺野古移設を推進する政府に対し、翁長知事は前知事の埋め立て承認の「取り消し」に加え、「撤回」も視野に工事を止める構えだ。

艦載機移転に影響

 一方、在日米軍再編計画に伴い17年ごろとされる米海軍厚木基地(神奈川県)から岩国基地への空母艦載機移転をめぐり、岩国市と山口県は「(再編の前提である)普天間移設の見通しが立たないうちに艦載機移転だけを切り離して進めることは認められない」とのスタンスだ。

 普天間移設が滞れば艦載機移転の受け入れで難しい判断を迫られることは間違いなく、移設問題の行方を注視する。ただ、市中心部の愛宕山地区への米軍家族住宅の建設など、国による受け入れ準備が着々と進む。

 翁長知事は「沖縄の米軍基地は県民が提供したものは一つもない。代替案を考えろというのは政府の堕落。『県外に持って行け』と言う以外に県が言えることはない」と理不尽な状況を説いた。安倍晋三首相との会談で、「辺野古に建設できなかった場合、普天間を固定化するのか」と尋ねると、返事がなかったことも明かした。

「応援団」の必要性

 沖縄に限らず米軍基地の存在は、日米地位協定によって地方自治の理念に反している。翁長知事は「形式的とはいっても国とは対等な関係がうたわれている。地方自治から日本を変えるぐらいの気持ちがないと、中央集権的なやり方では歯止めなく物事が進む」と警告し、「新基地」の建設阻止に不退転の決意を示す。

 「沖縄は遠い、見えない、聞こえない」。翁長知事と訪米し、沖縄の実情を訴えた名護市の稲嶺進市長は本土との心理的、物理的な距離感をこう表現し、県外や世界に「応援団」を広げる必要性を実感する。「国策がそこにいる人たちを犠牲にして成り立つのは許されない。世界一危険なものを辺野古にすり替えてやるのは論理矛盾ではないか」

(2015年6月21日朝刊掲載)

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