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知られざる「原爆の図」 丸木夫妻が描き続けた15部連作の番外編 埼玉で展示 惨状や差別 多彩に表現

 15部連作の「原爆の図」を30年以上、描き続けた画家の丸木位里(1901~95年)と俊(1912~2000年)。夫妻は、このほかにも、被爆の惨状を伝える絵を数多く残した。それら「番外編」ともいえる作品を集めた特別展示「発掘!知られざる 原爆の図」が、埼玉県東松山市の原爆の図丸木美術館で開かれている。迫力ある多様な表現が、きのこ雲の下で焼かれた無数の命に向き合わせてくれる。(森田裕美)

 会場には、普段はそれぞれの所蔵先に眠る大作9点が並ぶ。一糸まとわぬ姿で燃えさかる中を逃げまどう母子、水を求めて息絶えた女性…。1959年に、ビルマ戦没者慰霊のため建てられた高野山成福院(和歌山県)に壁画として奉納された「原爆の図 火」と「原爆の図 水」。それぞれ縦2・1メートル、横2・7メートルもある大作の前に立つと、火勢や音、臭気まで迫ってくるようだ。戦争がもたらす最悪の結末を、静かに物語る。

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 東京都葛飾区の勝養寺に依頼されて82年に描いた原爆の図は、「幽霊」「火」「水」「夜」の4部作。高野山の壁画と同じタイトルやサイズでも、また異なる表情を見せ、人間にもたらされた悲惨を伝える。

 53年に初めて長崎を訪れた丸木夫妻が、その時の取材を基に翌年描いた「原爆長崎之図」の2部作「三菱兵器工場」「浦上天主堂」も。当初は、連作の一部として制作する構想もあったという。背景をほとんど描かず死傷者の群像で表現した広島関連の作品とは異なり、建物の姿が印象的だ。長崎原爆資料館(長崎市)が所蔵している。

 大阪人権博物館(大阪市)にある「原爆の図 高張提灯(たかはりぢょうちん)」は86年に、被爆後の差別問題を描いたびょうぶ絵だ。

 これら9点のほかにも、丸木美術館が所蔵する俊の油彩画や、夫妻の原画を基に制作された西陣織の緞帳(どんちょう)など、多彩な「原爆の図」が紹介されている。制作年から、当時描き進められた15部連作と比較しながら画風や時代背景をたどっても興味深い。

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 特別展示は、同館が常設する「原爆の図」のうち6作品が米国へ渡るなど、被爆70年のことしは、国内外への貸し出しが多いことから、その期間を使って企画した。岡村幸宣学芸員は「15部作では選ばなかった題材を選んだり、依頼によって描き分けたりしていたようだ。それぞれに制作の経緯や込められた思いもある。普段はなかなか見ることができない作品。ぜひ味わってほしい」と話す。9月12日まで。

(2015年7月22日朝刊掲載)

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