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連載・特集

問われる日本の姿勢 若者の行動 後押しを 国際シンポ「被爆70年―核兵器廃絶と被爆体験の継承を考える」

 国際シンポジウム「被爆70年―核兵器廃絶と被爆体験の継承を考える」が20日、広島市中区の広島国際会議場であった。今春開かれた5年に1度の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で採択はされなかったものの、最終文書案に核兵器の非人道性などが盛り込まれていたことを受け、核廃絶への道筋や課題を議論。被爆国として、禁止条約を進める立場を取るよう日本政府に求める声が相次いだ。被爆70年を迎えた今、体験継承が急がれることも確認した。広島市立大、長崎大核兵器廃絶研究センター、中国新聞社の主催で、約250人が参加した。(文中敬称略)

登壇者

【基調講演者】
黒沢満氏 大阪女学院大大学院教授
美甘章子氏 心理学者

【パネリスト】
川崎哲(あきら)氏 核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)国際運営委員
中村桂子氏 長崎大核兵器廃絶研究センター准教授
桐谷多恵子氏 広島市立大広島平和研究所講師

【報告者】
田中美千子記者 中国新聞社報道部
河野新大(あらた)さん 高校3年
鼻岡舞子さん 高校2年
二井谷栞さん 高校2年
溝上希(のぞみ)さん 高校1年 中国新聞ジュニアライター
秀総一郎さん 長崎大2年ナガサキ・ユース代表団

【モデレーター・報告者】
水本和実氏 広島市立大広島平和研究所副所長・教授

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パネル討議

変化感じる 米市民の反応 核抑止力は思考停止では

  ―「核兵器の非人道性」という訴えが国際的に強まる中、日本政府の立ち位置はどうあるべきですか。
 黒沢 今回の再検討会議で出された「核兵器の非人道性」に関する共同声明は、オーストリアなどが主導したものだけではない。オーストラリアも、核抑止力を念頭に「国家安全保障も考える」という立場から同名の共同声明を出した。

 両方賛同したのが日本。ならば二つを対立ではなく調和させる役割を担うべきだ。世界的には「安全保障」の定義が人間、環境といった分野にも広がっている。「国家」にとらわれず、概念を広く捉える努力をすることが求められる。

 川崎 オーストリアは「共同声明」からさらに踏み込んだ「人道の誓約」も出した。こちらには100カ国以上が賛同したが、日本は賛同していない。それで通っているのは、世論の注目が足りないから。私たちはもっと驚き、怒るべきではないか。日本が賛同すれば、他の国にも波及するはずだ。

  ―原爆投下をめぐる日米の考え方には大きな溝が横たわってきました。
 美甘 米国は悪い者たちをやっつける世界のヒーローだ、という米国例外主義は根強い。被爆65年に平和を願う式典をサンディエゴで初めて行ったが、何百件もの反発的な意見がブログに書き込まれた。原爆と聞いただけで、特に中高年層から「真珠湾攻撃はどうした」「3発目を落としてやればよかった」という反感もあった。

 ただ、2年前に英語で父の被爆体験などをつづった本を出版した際は「原爆被害の悲惨さを知った。このような話も聞かなければ」という反応が圧倒的だった。変化を感じている。

  ―原爆を落とされた当の日本は、米国の「核の傘」の下にいます。
 中村 「核兵器の非人道性」の動きがさらに高まり、核兵器の非合法化という具体的な方向に進めば、核兵器を持たない国の間でも、真の非保有国と、安全保障の考え方が核保有国に極めて近い「まやかしの非保有国」に分かれていくだろう。日本がどちらに立つのか、さらに厳しい問いを突き付けられる。

 日本は、核兵器に対する価値観を転換しなければならない。北東アジアの非核兵器地帯化を目指すといった具体的一歩を踏み出すべきだ。

  ―しかし、日本はリーダーシップを発揮できていません。
 川崎 核兵器廃絶を唱えながら核抑止力にすがる、という自己矛盾のせいだと日本は批判される。だが本当は、思考停止し、核抑止力が果たして有効なのかを真剣に議論をしていないだけではないか。

 核に依存する安全保障は時代遅れ、というのが国際的な流れだ。核兵器がなくても他の手段はいくつもある。不勉強ゆえにリーダーシップを取れない。もっとまともな検討をすべきだ。

「核兵器=悪」浸透不可欠 聞く立場考えた発信必要

 黒沢 廃絶に向けた重要な柱の一つは、核兵器を「イコール悪」とすること。たばこに例えれば分かる。たばこが持つ負のイメージは、昔と全然違う。核兵器廃絶へ、理性と感性の両方に訴える必要がある。

 核兵器は冷戦期から過大評価されてきた。イスラエルの核がどれだけ抑止力になっているのか。フォークランド紛争では、英国が核を持っていてもアルゼンチンは攻めてきた。核兵器は持っている方がむしろ危険、という感覚を根付かせなければならない。

  ―核兵器廃絶に向けて若い世代の関心を高め、力を引き出すことも大切です。
 中村 学生は最初は関心を持っていなくても、被爆体験に触れ、核兵器の脅威は命に関わる具体的な問題だと言われれば、向き合おうとしてくれる。ところが、被爆者の語りに涙を流す学生が「中国の軍拡や北朝鮮の核武装を考えると、抑止力強化は必要だ」と言う。

 実際には、核兵器禁止への訴えは被爆国だけの声ではなく、国際社会の圧倒的マジョリティーだ。非核兵器地帯に入っている国は世界115カ国に達する。そんな現状を伝えると、学生の顔が明るくなる。核兵器による安全が「神話」にすぎないと気付く。現実を知ることは、若者にとって希望を見いだすことでもある。

 桐谷 学生から「原爆の日に平和を願うダンスを踊りたい」と言われたことがある。犠牲者を追悼する日に踊るのか、と驚いたが、希望も感じた。押しつけではなく、新たな表現や手法を認め、継承への試行錯誤を後押しすることが大切ではないか。

 美甘 子どもにとっては、被爆実態を直視させることがトラウマになる可能性もある。だが、全員がそうではない。その人の発達状況、文化的背景なども考えて提示していくべきだ。たとえば加害国の米国で被爆実態を伝える際、私はひどいやけどをした被災者の写真を使わない。目を覆いたくなるような描写には心を閉ざしてしまう可能性がある。しかし英国では別だ。相手に分かってもらえる伝え方を考えている。

  ―「核兵器の非人道性」から、進むべき方向性は。被爆地はどのような役割を担うべきでしょうか。
 黒沢 来年5月の主要国首脳会議に先立つ外相会合は、広島市で開催される。外相だけでなく、オバマ米大統領をはじめ各国の首脳を被爆地に呼ぶべきだ。「核兵器のない世界」を唱えたオバマ氏に任期中に広島でも語ってほしい。可能性はあると思っている。

 美甘 広島市と長崎市が毎年平和宣言を出し、体験証言も英語で多く出版されている。それでも、被爆の実態は海外でほとんど知られていない。聞く立場の人のことを本当に考えて発信していないからではないか。違う考えの人や、相いれない相手とも手をつなぐにはどうすればいいか、考えてほしい。

 川崎 被爆体験の発信が、これまで核兵器使用を抑止してきた。問題は、被爆者の肉声が聞けなくなる世界だ。いま、被爆体験を継承する努力と同時に、被爆者が生きているうちに禁止条約を実現させ、使用の抑止を拘束力あるものにしていく必要がある。

 桐谷 きのこ雲の下にいた一人一人の人間の体験から発信をすることに尽きる。そこから、核兵器は人間と共存できないのだと伝わる。被爆地の市民の重要な使命だと思う。

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基調講演 黒沢満氏

NPT会議 道は示された

 NPT再検討会議は、前回からの5年間に核軍縮が進んだかどうかチェックするが、ほとんど進展がなかった。それでも、最終文書案には新たな進展と考えられる重要な項目が三つあった。核兵器の非人道性の認識を広める「人道的イニシアチブ」、核兵器禁止条約、被爆体験の継承だ。

 人道的イニシアチブの議論は、前回の会議を機に積極的に始まった。今回、二つの共同声明が出された。オーストリアが提案して159カ国が賛同した声明は「核兵器が決して使用されないことを保証する唯一の方法は核兵器の全廃」と人道的側面に立つ。一方、26カ国が支持した声明は、安全保障面も考慮すべきだと指摘。最終文書案は、人道的側面を重視した上で、核兵器が二度と使用されないことが全ての人間の安全保障の利益だと主張する。

 核兵器を禁止する条約には考え方が三つある。期限を定めて段階的に廃絶する▽核兵器を持たない国だけでも使用・保有を禁止する国際規範をまずつくる▽核廃絶を約束するが、具体策は今後決める―の3通り。どう進めるかは、秋の国連総会で議論されるだろう。

 昨年春、広島で開かれた軍縮・不拡散イニシアチブ(NPDI)外相会合を踏まえ、最終文書案には当初、世界の政治指導者に広島と長崎への訪問を要請する内容が含まれていた。中国の反対で削除されたが、「核兵器の被害を受けた人々や社会とのやりとり、その経験を直接的に共有する」との文言が加わり、基本的内容は復活した。

 核兵器廃絶は、人間の理性と感性の両方に訴えることが不可欠だ。被爆地を訪れて証言を聞くことなどは感性に強く訴える。今回は形式的には失敗だったが、進むべき道が示された。

くろさわ・みつる
 45年大阪市生まれ。大阪大大学院法学研究科博士課程修了。同大教授、NPT再検討会議日本政府代表団顧問(00、05、10、15年)、日本軍縮学会初代会長などを歴任。専門は国際安全保障、特に核軍縮。

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基調講演 美甘章子氏

「許す心」共感につながる

 被爆者が対象の臨床的な心理・精神医学の研究はほとんどない。心的外傷後ストレス障害(PTSD)の研究が進んだのは、1980年代になってからだ。

 心的トラウマには、悪夢を繰り返してみる現象や、感情のまひがみられる。記憶を思い出させる状況や環境を避ける傾向などもある。被爆者も、「自分は死ななかったが、家族や友人は助からなかった」など生存者としての罪悪感を抱く。長年にわたって不安や過度の強迫観念などを抱え続けてきたといえる。

 被爆者の心理研究が遅れてきた背景には、体験の特殊さもある。瞬時に近い大殺りく。だれも想像したことのない経験をしたのだ。

 被爆から70年。記憶の継承が言われる。しかし、被爆体験を聞き出せばよいというものではない。話すことで楽になったという人がいる一方、生きるためにこれまで凍結してきた記憶を言葉にすることで、自我が不安定になってしまうこともあり得る。

 つらい思いをした時には憎悪の心理が働く。しかしそれを続けていては救われない。恨まず、「許す心」がその場を乗り越えさせてくれる。原爆や非人道性を許すのではない。同意できない行為・感情の背景を考えるのだ。「許す心」には、共感、思いやり、希望の構築といったプラスの感情が含まれている。

 被爆後、奇跡的に生き延びた父が原爆資料館(広島市中区)を通じて国連本部に貸し出していた祖父の形見の懐中時計が盗まれた。父の反応は「失うものもあれば、必ず得るものがある」だった。「人間性の弱さが戦争を生んだ。章子は世界を橋渡しできる仕事をしなさい」との父の言葉を胸に活動している。

みかも・あきこ
 61年広島市生まれ。広島大卒業後、渡米し臨床心理学博士号を取得。95年からサンディエゴ市で臨床心理医。両親の被爆体験をつづった「8時15分 ヒロシマで生きぬいて許す心」を日米両国で出版。

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活動・研究報告

現実的な条約探る段階 川崎哲氏

 再検討会議では、核兵器禁止に向けた行動を誓約する文書「人道の誓約」に100を超す国が賛同した。私たちの核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)はこの動きをサポートしてきた。

 核保有国は「非人道性」や「禁止」の文言を最終文書に入れることに抵抗した。しかし核軍縮への効果的措置を議論するため、国連総会への作業部会設置には米国も反対しなかった。

 もはや、禁止条約が良いか悪いかではなく、どんな条約が現実的で効果的かという段階。ICANは、核保有国が参加しなくても、まず使用・保有を禁止する条約をつくるよう提唱している。主要国が入らなくても、対人地雷やクラスター爆弾の禁止条約が実効力を持った例もある。

 日本政府は禁止条約に賛同していない。それなら被爆国として、どのような条約を目指すのか、説得力をもって示すべきである。

非人道性 追及する動き 水本和実氏

 広島・長崎への原爆投下や、核兵器そのものの非人道性を追及する動きが国際的に広がっている。それに対し、原爆投下は戦争終結のためやむを得なかった、または、戦争を起こした責任は日本軍にあるとして正当化する意見がある。

 日本は1931年、謀略によって満州事変を起こして以降、陸軍の特定グループに引きずられ、正当性のない戦争に突入。日本だけで約310万人、アジア太平洋地域で2千万人以上の命が奪われた。日本と、アジア太平洋地域にとって非人道的な戦争だった。

 最大の悲劇は、日本軍が降伏を許さないなど、兵士や民間人の人命を軽視したことだった。同時に米軍の空襲も、非戦闘員の大量殺りくであり、人命軽視だ。

 核兵器の非人道性は、日本の引き起こした戦争の非人道性や、その他の世界中の非人道的な問題とともに追及する視点が大切だ。

規制へ新たな展開も 田中美千子記者

 NPT再検討会議は、3年前の準備委員会の段階から取材を始め、オーストリアなど「人道グループ」と呼ばれる国々に注目していた。「非人道性」を理由に核兵器を法的に禁止する主張は、影響力を持つと感じていた。今回出した声明には、日本を含む過去最多の159カ国が賛同した。

 会議は、準備委とは違ってピリピリした雰囲気だった。最終文書をめぐる交渉は、核兵器を持つ国と持たない国とが激しく対立、取材も難航した。核軍縮の分野では合意していたとみられたが、中東問題という別の要素が絡み、寸前で最終文書は採択されなかった。

 ただ、最終文書案には核兵器廃絶に向け法的規制を含めた策を話し合う場の新提案も盛り込まれていた。今後、新たな動きが出る可能性は十分ある。人道グループの政府代表が反核非政府組織(NGO)と密接に連携を図っていた姿も印象に残った。

 被爆国でありながら米の「核の傘」の下にある日本の姿勢が一層問われるだろう。道のりは険しいが、広島から声を上げ続けることが大事だと感じた。

被爆者の人生 向き合う 桐谷多恵子氏

 広島と長崎の「復興」を生活者の視点から研究する立場から、被爆体験継承の課題を考えたい。

 被爆者から聞き取りする中で痛感するのは、「あの日」を知るだけでは一人一人の体験の実像には決して迫れないということだ。戦前の生活、亡き家族との思い出…。記録する量は膨大になるが、当事者と直接向き合える今こそ必要な作業だ。被爆者はよく、若い人が平和を担い核兵器を廃絶してほしい、と熱く語る。体験を踏まえた普遍的な願いを前に、体験を持たない私たちはどうすべきだろう。

 「原爆文学」を授業で使っている。作品中の被爆者の言葉に心が揺さぶられ、学生は涙を流す。元中国新聞社論説主幹の故金井利博氏が語った、原爆被害の「人間的悲惨」に向き合うきっかけだ。

 被爆者という語り手との対話。原爆文学を通して知る作業も「対話」だ。そこから、被爆体験をわがことと捉え、新たな伝え手となる可能性が生まれる。

核問題の今 考えたい 秀総一郎氏

 ナガサキ・ユース代表団は、核兵器廃絶を訴える力を持つ若者世代を育成するため、長崎県、長崎市、長崎大による「核兵器廃絶長崎連絡協議会」が2013年に始めた。公募で選ばれたメンバーが毎年、NPT再検討会議、同準備委員会に参加。事前に核問題の現状を学ぶとともに帰国後の報告などで発信している。

 ことしは3期生として12人が参加。再検討会議で自らプロジェクトを企画し、「現在の平和教育とその未来」をテーマに発表した。

 3月末から4月初めにかけて長崎大生305人を調査。多くの学生が平和教育を受けていたにもかかわらず、「核兵器廃絶の可能性は低い」と捉えている実態が明らかになった。特に、世界の核兵器数など現状を知らない。

 今後は、原爆についてだけでなく、核問題や国際情勢、そして、私たちはどうしたらいいかを「考える」教育が必要だ。被爆者の「自分たちと同じ目に遭ってほしくない」という思いを共有するには、今の平和教育を見直すべきだと思う。

「核と共存できぬ」共有 ジュニアライター

 被爆70年の今年、初めて海外取材に挑んだ。NPT再検討会議とホロコースト(ユダヤ人大虐殺)を学ぶ欧州スタディーツアーだ。

 再検討会議では、政府間で信頼関係を築く難しさや、被爆者の声をより発信していく必要性を感じた。一方、現地の人たちと「人間の安全な生活と核兵器は共存できない」という思いを共有した。各自の思いと行動が政治を動かす。

 アウシュビッツ強制収容所跡(ポーランド)やアンネ・フランクの隠れ家(オランダ)などを見学したスタディーツアー。自分たちと同じ人間が「人」として扱われず、ただ殺された現実に向き合った。アンネと同じ体験をする子どもが二度と出ないことを願う。

 5月の報告会で発表した「ヒロシマユースアピール2015」は、今後の活動に反映させる。被爆者の証言に耳を傾け、想像力を働かせたい。核兵器廃絶を阻む最大の原因は大多数の「無関心」。私たちの思いを記事に込めて、新聞を読む人の心に届けたい。

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 この特集は、文・冨沢佐一、谷口裕之、二井理江、金崎由美、山本祐司、写真・浜岡学が担当しました。

(2015年7月27日朝刊掲載)

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