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現場発2015 飛行コース多様化か 低空飛行が広島市街地で多発 安全確保へ米に要請強化を

 米海兵隊岩国基地(岩国市)の米軍機とみられる低空飛行に異変が起きている。これまで目立たなかった広島市街地で6月に目撃が相次ぎ、柳井市でも4月から騒音被害が深刻化。識者は飛行コースの多様化などが背景にあると分析する。自治体や国は、飛行情報の開示や住民の安心安全確保について、米国へ働き掛けを強める必要がある。(松本恭治)

 「『ゴーッ』という、今まで聞いたことのない大きな爆音だった。次、いつ来るのか…」。広島市南区の団体職員古田文和さん(68)は不安がる。6月13日午前7時40分ごろ、「ズシンとくる」爆音に驚いて自宅を飛び出した。上空を見上げると、米軍機5機が三角形の編隊を組んで北へ飛んでいったという。

 古田さん方は住宅地にあり、小中高校にも近い。古田さんは同月9、11日の午前7時ごろにも同様の音を聞いた。この3日間は西区や佐伯区、東区などの住民から市に、米軍機とみられる目撃情報が計14件寄せられた。2014年度は市全域で目撃は2日間9件だったが、これを既に上回る。

「朝早い時間も」

 市民団体「岩国基地の拡張・強化に反対する県西部住民の会」によると、9日の米軍機は6機編隊。坂本千尋事務局長(62)=廿日市市=は「5、6機連なって広島市街地を飛ぶ例はこれまでなかった。朝早い時間帯も異例だ」と指摘する。

 広島県内では、中国山地を横断するとされる「ブラウンルート」や、西中国山地の「エリア567」が訓練空域として設定されている。広島市街地は両コースには含まれない。

 一方、柳井市では4~6月、米軍機とみられる航空機騒音への苦情が62件寄せられた。市民は7月、中国四国防衛局に初めて対策を要望した。

 基地問題に詳しい元愛媛大教授の本田博利さん(67)=廿日市市=は「さまざまな地形や状況を想定し、飛行コースが変わってきているのではないか」とみる。一方、基地監視団体「リムピース」共同代表で岩国市議の田村順玄さん(69)は「訓練空域に向かう近道として市街地上空を使っている」との見方を示す。

 「人口密集地や学校に考慮を払う」「週末や祭日は必要不可欠な場合に限定する」…。米軍機の低空飛行訓練をめぐり日米合同委員会が1999年に合意した内容である。だが合意が守られているとは言い難い。

5年連続千件超

 広島県によると、14年度の低空飛行の目撃は1111件。ピークだった11年度の2049件より少ないものの、5年連続で千件を超えた。県は95年度以降、国に38回、米国には31回にわたって低空飛行訓練の中止などを要請してきたが、目立った改善はない。

 県国際課は「県民が生活する地域で低空飛行が続く限り要請を続ける」とのスタンスだ。しかし他に打つ手を見いだせないのが実情で、中国四国防衛局も「地域住民に与える影響を最小限にとどめるよう、引き続き米軍に働き掛けたい」とするにとどめる。

 在日米軍再編に伴い、岩国基地には17年ごろ米空母艦載機部隊の移転が予定される。山口、広島両県の住民でつくる「瀬戸内海の静かな環境を守る住民ネットワーク」の久米慶典顧問(59)=岩国市=は「米軍機の騒音被害が劇的に増える恐れがある。国は、訓練空域やコースなど知り得る情報を自治体側に提供すべきだ」と訴えている。

(2015年8月8日朝刊掲載)

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