社説・コラム

著者に聞く 「『聖戦』の残像」 福間良明さん 戦争のイメージ 原点どこに

 日本のメディア、特に出版や映画の世界で繰り返し表現された戦争のイメージを、歴史社会学の立場から分析した。冒頭の「『はだしのゲン』のメディア史」は2006年発表の論考だが、その7年後、松江市教委が市内の学校図書館で「ゲン」を閲覧制限したことが問題化した。本書で取り上げるテーマは、日本人の歴史認識と絡み合い、時としてニュースの表層に浮上する。

 「少年誌で連載が始まり、学校図書館に置かれた『ゲン』は、幅広い世代が継続的に読んだ作品。親や教師、政党までもが、それぞれの感動や政治的スタンスを投影した結果、『原爆マンガの正典』になった。松江での排除は、歴史を批判的に読み解くことへの抵抗感が広がる現状を象徴した出来事では」

 戦前知識人とナショナリズムの関係からスタートした著者の研究は、「戦争の語られ方」に軸を移した。本書は、最近10年間の著者の研究を盛り込んだ。

 戦後の戦争映画にも、観客や作り手の意識の変遷がうかがえる。広島県内で大規模なロケがあり、ヒットした「男たちの大和/YAMATO」(05年)を「男同士の絆を美学化し、死を意味付けた作品」と分析。対照的な作品として、敗戦から10年後の1955年に江津市出身の松林宗恵(しゅうえ)監督が手掛けた「人間魚雷回天」を挙げる。「ラストシーンの舞台はエンジン不調で海底に沈んだ特攻艇の内部。そこでの『無為な死』は、戦争体験を持つ監督と脚本家のメッセージを強く投影している」

 新刊「『知覧』の誕生」(柏書房)は、特攻基地があった知覧(鹿児島県)での地元の戦争の記憶が、戦記文学の読者や戦友会が期待するイメージに上書きされる過程を取り上げた。「広島の原爆ドームや沖縄の摩文仁(まぶに)の丘も、メディアが増幅した『聖地』イメージを地元が受け入れた結果として、今がある」。私たちが当たり前のように受容している「戦争のイメージ」の原点はどこにあり、どう形成されたのか。思索の旅は続く。(石川昌義)(人文書院・3888円)

ふくま・よしあき
 1969年熊本市生まれ。立命館大教授。著書に「焦土の記憶」「『戦争体験』の戦後史」など。

(2015年8月9日朝刊掲載)
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