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社説・コラム

どう見る安保関連法案 広島大大学院教育学研究科・川口隆行准教授 言葉・知性の軽視 危機感 

 安倍政権は言葉を非常に軽んじていて、文学研究者として憤りを覚える。例えば、後方支援で他国軍に提供できる「弾薬」に手りゅう弾が含まれるとの説明。法案は「武器」は提供できないとしているが、「手りゅう弾は人を殺傷することを目的とする火薬類を使用した消耗品なので、弾薬として提供可能」とした。全く分からない。コミュニケーションを阻害している。言葉は、互いの立場を調整し、合意形成するツールであるはずなのに。

 法案名にも盛り込まれた平和という言葉だって立場によって定義が違う。一方的に「これが平和だ」と押し付けられたとき、「違うんじゃない?」という意見が出て議論になり、その中で合意が生まれる。それがまともな社会だ。権力側が平和や安全の定義を押し付けるのはおかしい。

声明で社会守る

 7月23日、広島大(東広島市)の教員たちが「安保法案に反対する広島大学人有志の声明」をホームページで公表した。呼び掛け人の一人。賛同者は10日までに234人になった。

 ものを考えて批判的に検討するのが知性。それが今、ゆるがせになっていることに危機感がある。知性の集合体である大学の構成員として、声明を出す意味がそこにある。大学だけでなく、社会を守ることに通じると信じている。

日常に戦争混入

 専門は原爆文学研究。原爆をどう捉え、どう表現するかは、朝鮮戦争、ベトナム戦争、冷戦と、繰り返される戦争とその戦後に向き合う中で、変容してきたという。それをたどり「のっぺりとひとまとめに表現されている戦後70年を切断する」ことを、今の研究テーマに据える。

 法案が想定する戦争は、対中国の大戦や総力戦ではなく、世界中の紛争地に軍隊を恒常的に送り込むことだろう。日常に戦争を入り込ませる法案だ。

 日常の感覚が少しずつ変わっていく。大学進学の奨学金を得るために兵役に就くようになる可能性もある。豊かになりたい、勉強したいから軍隊に行く社会になるんじゃないか。どこかで誰かが死んだり、搾取や差別されたりしている隣で多くの人の日常は普通に回っていて、でも順番が来れば捨てられる社会に―。

 振り返ってみて、今が決定的な境目になる気がしてならない。やっとおかしいという声が上がり始めた。多くの人の言葉をつないで、この転換点をどう乗り越えるか。分かれ道だと思う。(新本恭子)

(2015年8月12日朝刊掲載)

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