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在朝被爆者 初の健診 広島県医師会 来月実施で調整

 広島県医師会が10月、北朝鮮に医師団を派遣し、被爆者の健康診断を初めて実施する方向で北朝鮮当局と最終調整していることが13日、分かった。日本と国交がない北朝鮮に住む被爆者は被爆者援護から取り残された存在。平壌など2都市で被爆者を健診し、病気の相談などを受ける。

 碓井静照会長や松村誠常任理事たち医師8人が10月4~8日の日程で北朝鮮入り。平壌と広島からの帰国者が多いとされる平壌郊外の沙里院を訪問する。健診する被爆者は20人程度になる見込み。

 また核戦争防止国際医師会議(IPPNW)日本支部長を務める碓井会長は北朝鮮支部の会員と面会。広島で来年8月にあるIPPNW世界大会への出席を要請する予定だ。

 北朝鮮の被爆者健診をめぐっては碓井会長たちが2008年9月、事前協議のため訪朝。翌09年から今春にかけ3度、医師団派遣を計画したが、北朝鮮の核実験や韓国海軍哨戒艦沈没事件などで民間レベルでの交流は困難に。東日本大震災も重なり延期していた。

 7月に訪朝した原水爆禁止国民会議のメンバーが現地の被爆者団体から得た情報によると、08年時点で生存していた北朝鮮の被爆者は382人。うち1~2割はその後死亡したという。

 碓井会長は「被爆者の人道的支援に国境や国籍の違いはない。継続的支援につなげる一歩にしたい」と話している。 (金崎由美)

≪在外被爆者を取りまく状況≫

1974年 東京都が都内で入院中の在韓被爆者に初めて被爆者健康手帳を交付
  76年 広島市が治療のため来日した在韓被爆者に健康管理手当を初めて支給
  77年 広島県医師会と放射線影響研究所が在北米被爆者健診を開始
  80年 日韓両政府による在韓被爆者の渡日治療が始まる
  85年 広島県が南米に移住した被爆者の健診を開始
  94年 被爆者援護法成立。在外被爆者援護について明記せず
2001年 日本政府代表団が北朝鮮を訪れ被爆者の実態を調査▽厚生労働省の在外被爆者に関する検討会初会合
  02年 国の在外被爆者支援事業始まる。手帳の交付申請や渡日治療の旅費を支給
  03年 健康管理手当の受給権は海外居住で喪失するとの通達を厚労省が廃止
  04年 在外被爆者の医療費一部助成始まる
  05年 在外被爆者の居住地での手当申請手続き始まる
  08年 改正被爆者援護法が施行。手帳交付申請を在外公館で受け付け
  10年 在外被爆者の原爆症認定申請の「来日要件」を撤廃

進む高齢化に危機感

 広島県医師会が計画する北朝鮮の被爆者健診はこれまで、北朝鮮の核実験実施で日本政府から自粛を要請されるなど何度も延期に追い込まれてきた。国交がないが故に、被爆66年を経た現在も援護の枠外に置かれる在朝被爆者への支援は被爆地に残された課題だ。

 さまざまな困難の中、県医師会が健診実施を目指してきた背景には被爆者の高齢化がある。日本の被爆者の平均年齢は77歳を超える。さらに北朝鮮の被爆者はどんな状態にあるのかさえ分かっていない。残された時間は少ないとの危機感を関係者は共有している。

 長年被爆者を診てきた医師たちによる海外健診事業は県医師会などが始めた1977年の在北米被爆者健診にさかのぼる。85年からは広島県がブラジルなど南米に県医師会の医師を派遣。韓国でも長崎県などの主導で健診が行われている。

 在外被爆者の裁判闘争などを背景に、日本政府は援護制度の改正を重ねた。2008年には国外の在外公館で被爆者健康手帳の取得もできるようになった。だが国交のない北朝鮮に住む被爆者は制度改正の恩恵を受けることができない。

 日本人拉致問題が進展せず日朝関係が好転する兆しもない中、今回の健診が在朝被爆者をめぐる状況にどんな一石を投じるか、見えない部分が多い。ただ国家間の思惑とは別に、被爆地からの人道援助に一歩踏み出すことの意義は大きい。(金崎由美)

(2011年9月14日朝刊掲載)

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