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社説・コラム

社説 「抗日戦争勝利」式典 成熟した関係どう築く

 今後の日中関係にどんな影響を及ぼすか。きのう中国の首都北京で「抗日戦争勝利70周年」の記念式典があった。

 軍事パレードで愛国心を鼓舞するとともに、習近平国家主席の演説では抗日戦争の歴史に触れて「中国を植民地化する日本軍国主義のたくらみを完全に打ち砕いた」と、過去の日本の行為を指弾した。

 経済の失速や相次ぐ工場爆発などの難題に見舞われる中で、共産党政権の求心力を高める狙いがあるのは間違いない。

 一方で国際社会に高まる中国脅威論を意識したのだろう。演説では総兵力230万人のうち30万人を削減すると宣言し、覇権主義は取らないと口にした。ただこれも軍の省力化とハイテク化の一環であり、新型のミサイルや空母艦載機などをパレードで初公開した姿勢こそ中国の本質だとの見方もできよう。

 一筋縄にいかない国である。しかも、したたかだ。欧米諸国や日本が首脳らの出席を見送る中で、米国と同盟関係にある韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領を軍事パレードに立ち会わせる「成果」を得た。さらにはロシアのプーチン大統領との蜜月ぶりをアピールした。中国からすれば日米同盟をけん制する外交ショーとしての意味合いは十分なのだろう。

 中国と経済的に切っても切り離せない日本は、こうした硬軟の戦略を読み取り、かつ上手に渡り合わなければならない。その難しさに対する自覚が政府与党にどこまであるか。

 中国の動向をことさらライバル視し、あるいは敵視して批判を強める向きが政権の内外に目立つ。今回の式典に関していえば国連の潘基文(バンキムン)事務総長が出席した点を、やり玉に挙げる声が自民党内に強い。ただ国連そのものが戦勝国の枠組みで発足した組織であり、その一つの記念行事に出席するのはやむを得なかったのではないか。現に米国は一定に理解を示している。

 必要なのは、問題を切り分けて考える冷静な姿勢である。

 過去の侵略や戦争には常に謙虚であるべきだ。習主席はパレード後のレセプションで「侵略戦争の否定、歪曲(わいきょく)、美化」を批判し、名指しは避けたが安倍政権に物申す形になった。8月の安倍談話への中国政府の反応が抑制的で、歴史問題での対立は峠を越えたとの期待もあっただけに、日本側からは主席の発言に不満の声が出ている。

 ただ歴史の教訓に学ぶ姿勢を持ち続けてこそ、真の未来志向は成り立つ。そのことは70年を過ぎても決して変わりはないことを忘れてはならない。

 その上で中国の振る舞いに対し、毅然(きぜん)とした姿勢を取るのは当然だ。軍事力増強はもちろん尖閣問題も含めた行き過ぎた海洋進出に歯止めをかける。自治区成立から50年を迎えたチベット問題をはじめ人権侵害の解決を求めていく。日本が各国と連携し、中国のありようをただすことに遠慮する必要はない。

 幸い向こうからボールが投げられた。途絶えていた日中韓、さらに日韓の首脳会談への道が習主席と朴大統領の協議で開けた。いい意味で中韓接近の果実だろう。日本もしっかり受け止めたい。嫌い、警戒するばかりではなく相手の懐に飛び込んで本当に言うべきことを言い、平和と共生を探る。成熟した外交関係を今こそ築きたい。

(2015年9月4日朝刊掲載)

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