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連載・特集

ゴールは国造り サッカーアフガン女子 広島研修 社会変えるリーダーに

 アフガニスタンのサッカー女子代表チームが9月中旬、国連訓練調査研究所(ユニタール)広島事務所に招かれ、被爆地広島で初めて研修した。スポーツを通じて女性の社会参画を進め、平和な社会づくりを目指すのが狙い。しかし内戦や米国による軍事介入で傷ついた母国では今なお、女性への偏見・差別が残る。実現への道筋は見えてきたのか―。6日間の研修プログラムを受けた彼女たちを追った。(山本祐司)

 「自分が手本になる」。女性のリーダーシップについて学ぶ講座で、講師から「あなたのお手本は誰」と尋ねられ、ある選手がこう言い切った。「サッカーを通して平和をつくりたい」「女性でもサッカーができることを見せたい」。他の選手からも前向きな意見が相次いだ。「先駆者」としての意識を強く感じた。

 アフガン向けのユニタールの研修は2003年に始まった。今までは政府関係者らが対象で男性がほとんど。今回は一転、国民に人気のあるサッカーに打ち込む女子代表チームを後押ししようと、選手15人と監督やコーチら4人を招いた。

 1979年の旧ソ連軍の侵攻、2001年の米中枢同時テロを受けた米国の軍事介入…。紛争と内戦に苦しんできたアフガン。復興に向かう今、サッカーが国民の心をつなぐ。だが、彼女たちは依然逆風の中だ。

嫌がらせや脅迫

 女性は人前に出てはいけない―。そんな風潮が根強く、スポーツをすること自体、周囲の反対に遭う。投石や言葉によるいじめに加え、嫌がらせや脅迫をするグループの追跡をかわすため、練習に向かう途中、車を2、3回乗り換えるという選手もいた。昨年発足したばかりの代表チーム自体も練習環境は劣悪だ。自爆テロが続き、治安が悪いため、定期練習は週3日、1日2時間に限られている。

 実際、力の差も見せつけられた。なでしこリーグ2部のアンジュヴィオレ広島との親善試合は0―14。ただ、国際サッカー連盟(FIFA)ランキング132位のチームだけに伸びしろは大きい。アミン・アミニ監督(45)は「ベストは尽くした。経験を積むことが大切だ。パスの仕方やコンビネーションなど学ぶことが多かった。持ち帰りたい」と前を見据える。

逆境でも夢追う

 「サッカー選手になる夢を実現している時点で、彼女たちは既に母国のリーダーといえる」。講師を務めた関西学院大客員教授の大崎麻子さん(44)=ジェンダー・国際協力論=は評価する。「若い彼女らがプレーする姿を見せることで、他の女性も希望が持てる。男性の意識を変えるきっかけにもなり、社会をボトムアップで変えられる」と期待を掛ける。

 研修最終日は、被爆地の市民を勇気づけた広島東洋カープの試合を観戦した。勝利を目指してプレーするナインと、スクワットをしたりジェット風船を飛ばしたりして応援する真っ赤なスタンドを見て、選手はさらに鼓舞された。主将のフルーザン・アブドゥルマッフーズ選手(21)は「チームもファンも一致団結する力がすごい。私たちもチームワークをもっと強め、一人一人の役割を理解して、個人の力を発揮したい」。

 「主将として母国のサッカーを今後どうしたいか」と問うと、「より良い女子クラブをつくり、女性がサッカーをできる土壌を育みたい。そのため、脅迫も恐れない」。身長158センチとチーム内でも小柄な彼女から、力強い言葉が返ってきた。焼け野原から立ち直った広島が希望を与えられたのだろうか。逆境の中でも夢を追う人たちを元気づける―。そんな力を被爆地広島は持っている。市民も巻き込んで、サポートする努力を続けないといけない。

≪広島での主な研修日程≫(9月16~21日)

▽開会式
▽原爆資料館の見学と、被爆者の小倉桂子さんの講話
▽広島文教女子大付属高の生徒と日本文化の体験
▽女性のリーダーシップなどについての講座
▽サンフレッチェ広島の試合観戦
▽アンジュヴィオレ広島と親善試合
▽広島東洋カープの試合観戦

(2015年10月1日朝刊掲載)

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