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社説・コラム

社説 岩国騒音に賠償命令 「違法状態」 放置できぬ

 旧海軍の手で戦時中に建設された飛行場が米軍に接収されて70年。基地の街・岩国の歴史で特筆すべき判決ではないか。

 米海兵隊岩国基地の騒音被害をめぐり、周辺住民が国を相手取った「岩国爆音訴訟」で山口地裁岩国支部はきのう、過去の被害に限って総額5億5800万円の損害賠償を国に命じた。岩国の騒音被害についての判決は初めてである。

 原告側からすれば物足りない判決内容ではあろう。騒音の発生源である米軍機などの飛行差し止めは認めず、2017年にも予定される米空母艦載機部隊の岩国移転の歯止めにもならなかった。米軍には国の権限が及ばないとしてきた過去の司法判断が踏襲された格好になる。

 艦載機が現在、拠点とする厚木基地(神奈川県)の第4次騒音訴訟の高裁判決のような、将来分の賠償も却下された。

 ただ判決の持つ意味をことさら軽く考える必要はない。

 何より他の騒音訴訟の判決と同じく、うるささ指数(W値)75以上で暮らす人たちを賠償の対象としたことである。睡眠の妨げや頭痛などの健康影響と精神的被害を認定し、「遺法な権利侵害」「人間らしい生活を営む上で重要な利益の侵害」などと強い言葉を連ねた。

 10年からの滑走路沖合移設による騒音軽減効果に限界があるとした点も目を引く。

 国の側は移設で騒音は大きく軽減されたとして「受忍の限度を超えない」と主張した。しかし判決では一定の軽減を認めて賠償金は減らしたものの、W値75以上に相当する被害がなお、残っているとした。その上で、艦載機の移転後には騒音が一段と悪化する可能性を指摘したのはうなずける。

 国家賠償の対象となる違法状態が続くことを予見し、基地の公共性にも疑問を投げ掛けた判決といえる。その重みを国は真剣に受け止めるべきだ。

 そもそも国は岩国の被害をあまりに軽視してきたのではないか。全国的にみても日米安保に理解があり、基地と共存共栄を掲げる街に甘えてきた感もあろう。住民の側も厚木や沖縄の嘉手納、普天間といった他の基地周辺とは違い、09年に爆音訴訟を起こすまでは裁判に訴える手段を「封印」してきた。

 負担軽減の切り札のはずの沖合移設が受け皿となり、艦載機部隊が地元の頭越しに押し付けられたことで、もはや状況は変わっていよう。各地の騒音訴訟に比べると原告に名を連ねた住民の数は少なめだが、国への根強い不信感が根底に流れていることを忘れてはならない。

 問題はこれからだ。艦載機移転の準備が本格化する中で、裁判は高裁に舞台を移すことになろう。政府と地元住民の緊張関係が続くのは間違いない。

 そこで国がなすべきは米軍の運用を優先することではない。住民の暮らしと安全を守ることだ。米軍機の騒音や事故の危険性にとどまらず基地がもたらす全てのリスクを隠すことなく正面から向き合い、その軽減にもっと力を尽くさずして地元の理解など得られるはずもない。

 賠償さえすれば済むという話ではない。司法の場が初めて認めた岩国基地の「違法性」を全く顧みず、現状を漫然と放置したまま艦載機移転に突き進むような姿勢は許されない。

(2015年10月16日朝刊掲載)

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