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被爆地訪問を呼び掛け 「広島・長崎」は言い換え 国連委に政府 核廃絶決議案を提出

 日本政府は20日(日本時間21日)、米ニューヨークで開かれている国連総会第1委員会(軍縮)に核兵器廃絶決議案を提出した。指導者や若者たちに被爆地訪問を呼び掛けたほか、被爆者の証言活動を重視。核兵器の非人道性を強調し、多国間での削減交渉を進めるよう求めた。日本が主導する決議案の提出は、22年連続になる。

 提出段階での共同提案国は、ドイツやオランダなど計51カ国。昨年は提案国だった核保有国の米国や英国は加わっていない。決議案の内容は、今春の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で各国が合意できなかった最終文書案をベースにしている。

 「被爆地訪問」をめぐっては、広島、長崎という具体的な地名を盛り込まず、「核兵器の使用で荒廃した都市への訪問」と表現。NPT再検討会議の最終文書案で中国の反発により被爆地訪問に関する記述が削られた経緯を受け、中国に一定に配慮したとみられる。

 また、決議案では「Hibakushas(ヒバクシャズ)」との文言を初めて使い、被爆者の証言を聞く重要性を強調した。核兵器の非人道性に基づき廃絶を目指す国際的な機運を踏まえ、「核兵器使用の非人道的結末への深い懸念が、全ての国の努力を下支えする」と明記した。

 昨年の決議案は、当初は米英を含む45カ国が共同提案。提案国は116カ国まで増え、最終的に170カ国が賛成し採択された。

 一方、オーストリアなど約40カ国も20日、核兵器の禁止や廃絶に向けた法的枠組みづくりへの努力を呼び掛ける決議案を共同提出した。米国の「核の傘」に依存し、即時の禁止条約に否定的な日本は賛成しないとみられる。(藤村潤平)

≪日本が主導する核兵器廃絶決議案のポイント≫

・核兵器使用による非人道的な結末への深い懸念が、全ての国の努力を下支えすることを強調
・核兵器保有国に、2国間や多国間を含む全ての種類の核兵器の削減を要請
・核軍縮をさらに模索するため、多国間の場での関与を推進
・北朝鮮に既存の核計画などを全て放棄するように要求
・指導者や若者の被爆地訪問、被爆者の証言活動を推進

【解説】被爆国の自覚薄

 日本政府が主導する核兵器廃絶決議案では、被爆地の「広島・長崎」が「核兵器の使用で荒廃した都市」と言い換えられた。今春のNPT再検討会議での中国の反発を受けた政治判断といえる。だが、日本政府自らが被爆地広島・長崎への直接の言及を避け、間接的に表現することは、発信力や訴求力の低下につながりかねない。

 外務省は、決議案の前文に「広島、長崎の被爆から70年」と記述していることを挙げ、「(荒廃した都市が)広島、長崎を指すのは当然だ」と説明する。しかし、安倍晋三首相や岸田文雄外相は、これまでの国連演説などで「広島や長崎を訪れてほしい」とストレートに呼び掛けてきた。

 今になって言い換えるのは、再検討会議の最終文書案への「被爆地訪問」の記載をめぐり、中国と激しい応酬があったからだ。決議案への賛成国を減らさないためにも中国との摩擦の再燃を避けたい、との判断が働いたはずだ。

 日本政府が、こうした言い換えを国際社会で続けるかどうかは不透明だ。ただ、継続すれば浸透する。広島、長崎の名を世界の人々の記憶から薄れさせるきっかけを、日本政府がつくることにならないか。

 たかが表現という問題ではない。決議案からは、核兵器の悲惨さを伝える使命を持つ被爆国政府の自覚の希薄さが透けて見える。(藤村潤平)

(2015年10月22日朝刊掲載)

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