×

ニュース

「学ぼうヒロシマ」活用の輪

 中国新聞社が制作・配布する中学・高校生向け平和学習新聞「学ぼうヒロシマ」が各校で活用されている。70年前の被爆状況の解説や被爆証言などで構成。ヒロシマへの理解・関心を深めてもらおうと生まれて3年目になる。8月6日を中心にした各地での平和の集いで、記憶を継承する学習の場で、若者たちは、この新聞を使っている。証言を読んで被爆者に自身の姿を重ね、座談会での同年代の中国新聞ジュニアライターの発言に刺激も受ける―。「学ぼうヒロシマ」を通じ、若い世代は平和への思いを深めている。

広島修道大付鈴峯中高 壁新聞に反戦の誓い

 広島修道大付鈴峯中高(広島市西区)は本年度、平和学習に「学ぼうヒロシマ」を初めて取り入れた。

 中学1年生は、平和記念公園(中区)一帯を巡った7月のフィールドワークとともに、授業で「学ぼう…」を読んで平和についての理解を深めた。一連の学習成果を形にしようと10月、平和をテーマにした壁新聞(108×79センチ)を班ごとに作った。11月3日の文化祭で披露する。

 「平和ってええなあ」と表題を付けた班は、「学ぼう…」紙面の写真を貼り、メンバー5人がそれぞれの平和観を書き込んだ。「友だちと笑い合える幸せ」と記した戎谷(えびすたに)美咲さん(13)は「新聞の被爆体験を読んで、当時の人は怖さでいっぱいだったはず、と思った。当たり前に笑い合える今を幸せと感じた」。

 原爆症からの回復を願って鶴を折った佐々木禎子さんの話が印象に残った班は、紙面中央に折り鶴を描き、「平和への祈りを込めて」の文字を配した。浅見今日子さん(13)は「禎子さんを知り、安易に『死にたい』なんて言わないようにする。戦争や原爆の怖さを考えてもらえる壁新聞に」と仕上げに熱中していた。

 1年担任の伊藤真教諭(28)は「具体的事例や体験談を自分と重ね、生徒はよりリアルに原爆をとらえ、平和について考えたようだ」と手応えを示した。

 高校でも1年生が9月に「学ぼう…」を活用した平和学習を実施。理解を確かめる「チャレンジしてみよう!」などに取り組んだ。安部柚希(ゆずき)さん(15)は「学習を通じ、私たちは平和を語り継いでいく世代なんだと思った」と話していた。

広島・伴中 感じた思い 語り合う

 「原爆や戦争の怖さを伝え続けたい」「分かり合おうとする努力が大切だと思う」―。広島市安佐南区の伴中3年5組の教室。10月のある日、「学ぼうヒロシマ」を読んだ感想文を、班のメンバー同士で披露し、話し合った。

 感想文は3年生の平和学習の一環で、紙面に載った被爆証言やジュニアライターの座談会などを読み、「平和な社会の実現へ向けてどんな思いを抱いたか」を記した。

 日髙さくらさん(15)は、被爆者の高齢化に触れ「広島に生まれた私たちが原爆の恐ろしさを伝えていかないといけない」と発表。班員からは「被爆者の言葉は具体的で印象に残る。その証言が忘れられたら損失」「僕たち若い世代が受け継いでいくべきだ」との声が上がった。

 こうした「ヒロシマの発信」のほか、「争いを防ぐため、身近なところでも国家間でも良好な関係づくりが大切」など多彩な意見が出た。生徒はそれぞれの主張を新鮮な思いで受け止めた様子だった。

 担任の津田歩(あゆみ)教諭は「感想発表を通じて、いろんな考えがあると知ったはず。互いを理解し合うことがよりよい社会につながり、それが平和への一歩となるのでは」と語り掛けた。

福山・盈進中高 朝読書で基礎知識得る

 それぞれの机の上に「学ぼうヒロシマ」を広げ、真剣なまなざしで静かに文字を追う。福山市の盈進中高は7月6~10日の5日間、朝読書の時間に活用した。全校生徒約1200人が午前8時20分から10分間、黙読した。

 高校1年生は、10月初旬にも実施。藤井太樹君(15)は「短時間で、核兵器や被爆について学ぶことができる。英語のページにも挑戦したい」と話した。

 さらに中学校では、英語の授業でも使った。将来、被爆地広島について海外にも発信してほしいとの思いからだという。

 盈進中高の延和聡教頭(51)は「学ぼう…」を活用する意義について「被爆についての基礎的な知識を得ることができる」と説明。「広島県内で学ぶ生徒たちには、被爆についてしっかり学び、体験を継承してほしい」と願う。

三次・君田中 「今から行動」平和宣言練る

 「戦争が起きてから平和を叫んでも遅い。平和を守るため、今から行動していくことを誓う」―。8月6日に三次市君田町で開かれた戦没者慰霊祭で、君田中の生徒の声が響き渡った。全校生徒35人が平和学習の成果を約千文字の文章にまとめた平和宣言だ。

 7月上旬、平和学習の時間に「学ぼうヒロシマ」を使い、宣言作りに取り組んだ。8グループに分かれて、焦土と化した街で妹を見つけられなかった被爆者の証言記事などを声に出して読み、印象的な言葉をホワイトボードに書き出した。

 「戦争には、『遺体をまたいでも何も感じないほど感覚をまひさせる』怖さがある」「母親と生き別れ、今なお『自分は親不孝者』と悔やんでいる人がいる」。各グループの意見や感想の中から、生徒会執行部が言葉を選んで練り上げた。

 宣言を読み上げた生徒会長の3年橋本弘輝君(14)は「被爆者の声を入れたことで、戦争が身近に感じられ、メッセージの重みが増した」と振り返る。十代(そよ)田(だ)雄治郎校長(56)は「記憶の風化が進む中、活字から当時の状況をイメージし、追体験できる力を身につけてほしい」と願う。

 11月7日の文化祭では模造紙に印刷した宣言を掲示する。保護者や地域住民に平和の大切さを考えるきっかけにしてもらう。

  --------------------

全国への広がり

文化祭で紹介 企画展も

 「学ぼうヒロシマ」を平和学習などに使う学校や自治体は、全国にも広がっている。徳島文理中学・高校(徳島市)も、その一つ。広島への修学旅行を控えた中学2年生124人が6~8月、「学ぼう…」を使って勉強した。数人ずつに分かれ学んだことを模造紙にまとめ、8月下旬の文化祭で展示した。

 それぞれ「学ぼう…」から切り抜いた記事や写真、見出しなどを貼り、「語り継ぐ戦争」「あの日を伝える」「なくそう!!核の恐怖」などの文字を記載。折り鶴を貼り付けた作品もあった。

 立石有礎(ゆき)教諭は「写真が多く、用語の説明が詳しくて分かりやすい」。生徒も「原爆と通常の爆弾との違いなど知らなかったことが分かって関心を持てた」「ジュニアライターのように私たち若い世代が戦争の記憶を受け継いでいく大切さを感じた」と話していた。

 ほかにも、兵庫県姫路市や長野県須坂市、大分県由布市の中学校、千葉県船橋市の高校などが活用の要望を中国新聞社に寄せ、必要な人数分の「学ぼう…」を受け取った。

 また今年が被爆・戦後70年の節目だったため、「学ぼう…」とDVDは、平和首長会議(会長・松井一実広島市長)に加盟する国内約1600の市区町村にも贈られた。石川県野々市市は、8月6日の広島での平和記念式典に参加する市内の中学生の平和学習に活用。ヒロシマをテーマにした図書館での企画展などで使う自治体もあった。

  --------------------

「学ぼうヒロシマ」とは

 中学・高校生向け平和学習新聞「学ぼうヒロシマ」は、平和を訴えてきた被爆地広島の願いを若者に受け継いでもらおうと、中国新聞社が2013年から毎年、広島国際文化財団の協賛を得て制作している。

 中学・高校生用ともタブロイド判、カラー、24ページ。柱は、被爆証言を聞く本紙の連載「記憶を受け継ぐ」で10人分の記事に、取材した中国新聞ジュニアライターの感想も掲載。証言の一部は英訳も載せている。

 原爆投下の背景や理解度をチェックするワークシートや、中学・高校それぞれの知識や関心に合わせた推薦図書なども盛り込んだ。

 毎年、広島県内の全ての中学生・高校生に配布。山口県内でも、市町教委が中国新聞社と新聞活用協定を結んでいる岩国や柳井など県東部10市町の国公立中学に販売所を通じて届けた。

 3人の被爆証言とジュニアライターの活動などを収録したDVDは、広島国際文化財団の補助で今年初めて制作。「学ぼう…」と一緒に各中学・高校に配った。

 「学ぼうヒロシマ」の内容を今後さらに充実させていくため、感想や改善点の提案、活用例を学校現場などから募集しています。

 ご意見などがあれば、ヒロシマ平和メディアセンターまでお寄せください。ファクス082(236)2807。メールアドレスkidspj@chugoku-np.co.jp

ヒロシマ平和メディアセンター http://www.hiroshimapeacemedia.jp/

この特集は、谷口裕之、野平慧一、小林可奈、宮崎智三が担当しました。

(2015年10月26日朝刊掲載)

年別アーカイブ