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伊方原発 再稼働へ <上> 避難態勢

周りは海 逃げ場なく 山口県上関 高齢化の島に不安

 山口県上関町の八島。愛媛県の中村時広知事が四国電力伊方原発3号機(同県伊方町)の再稼働に同意を表明した26日、瀬戸内海の小さな離島は、普段通りの穏やかさに包まれていた。島の南側が伊方原発の半径30キロ圏内に掛かる。集落があるのは原発から約31キロの西側の山裾だが、全島が緊急防護措置区域(UPZ)の位置付けだ。

島民の実感薄く

 野鳥の鳴き声と波音が繰り返すのどかな日常。島で唯一の商店を営む女性(80)は「長いこと気にせずに過ごしてきた。今更、何とも思わない」と実感なく笑う。海以外、原発のある佐田岬半島までを遮るものはない。

 同町長島では中国電力が上関原発建設を計画する。柏原重海町長は中村知事の同意表明を受け、「地元の判断を尊重する」と述べた。八島の島民避難については、11月上旬に予定される国の原子力総合防災訓練などを通じ、2013年にまとめた避難行動計画の実効性を高める考えを示す。「想定し得る対策は全て取っている」と山口県防災危機管理課。だが、そう言い切れない実情がある。

 八島から本土へ渡る交通機関は、町中心部との間を片道30分で結ぶ1日3往復の定期船しかない。伊方原発で重大事故が発生した場合、行動計画では定期船で本土に避難することになっている。

 町によると、この1年間に悪天候が原因で欠航したのは42日間で計87便。ほかに港にあるのは漁船3隻だけだ。「冬場はしけも多く、船を出せない。ヘリコプターも飛べなかったら、どうやって逃げればいいのか」。定期船の切符販売を担う久保泰子さん(77)は孤立無援となるのを心配する。

 島は過疎と高齢化が著しい。漁業と肉牛飼育などを生業に、1960年には669人が暮らした。現在、島民は16世帯23人に。63歳の男性を除き、全員が65歳以上の「超高齢化の島」だ。

集合に30分要す

 避難指示が出た場合、島民はいったん八島ふれあいセンターに集合することになっている。町は13年、山口、愛媛両県と連携し、島での避難訓練を初めて実施。つえや手押し車を使う人が多く、介助を必要とする姿もあり、全員がそろうのに約30分を要した。八島区長の大田勝さん(77)は「お年寄りばかりで、転倒によるけがだってある」と避難を不安視する。

 福島第1原発事故では、事故でまき散らされた放射性物質で、大部分が30~50キロ圏の福島県飯舘村は今なお、全村避難を強いられている。上関原発を建てさせない祝島島民の会の清水敏保代表(60)は「事故におびえながらの生活を広範囲で強いられる。到底受け入れられない」と再稼働反対を訴える。(井上龍太郎)

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 瀬戸内海の対岸にある伊方原発3号機が年明け以降に再稼働する見通しになった。中国地方にも広がる波紋を追う。

(2015年10月27日朝刊掲載)

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