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被爆者の遺影登録1.5倍 広島の追悼祈念館 70年節目「生きた証し」

 被爆70年を迎えた本年度、国立広島原爆死没者追悼平和祈念館(広島市中区)への名前、遺影の登録が増えている。4月から9月末までで619人となり、昨年同期(413人)の1・5倍。節目の年に、親やきょうだいの生きた証しを刻もうという遺族が目立つ。同館も被爆者団体などを通じて呼び掛けを強めている。

 2002年8月にオープンした同館は、広島で被爆して亡くなった人の名前と遺影を原則遺族から収集。14年度までに2万20人(名前のみ2523人)を登録し、うち希望した1万9102人(同2027人)を館内で公開している。

 登録数は開館前の4791人、02年度の8月以降の7174人で合わせて6割を占め、14年度は538人で最少だった。しかし、15年度は7月が前年度比約2・2倍の175人に上るなど、8月6日が近づくにつれ増加。4年ぶりに前年度を上回るペースだ。同館は「70年の節目の意識が一因」とみる。

 広島県府中町の渡美津子さん(77)は9月、安田高等女学校(現安田女子中高)1年で学徒動員に出て原爆死した姉、荒牧初代さん=当時(12)=の遺影を寄せた。「数多くの子どもの未来を奪った原爆の悲惨さを知ってほしい」と願う。娘を思って晩年まで動員学徒慰霊塔に訪れ続けた、やはり被爆者の母ツナヲさん=03年に93歳で死去=の遺影も一緒に登録した。

 祈念館は本年度、館内の見学ルートに遺影の募集ポスターを張り出すなどPRを強化。9月には米国に住む被爆者の団体にチラシと申込書計300通を英訳付きで送り、さっそく1人の申請があった。今後は、平和運動や文化、芸術活動で知られながら未登録の被爆者の遺族たちにも、協力を呼び掛けるという。

 原爆慰霊碑の石室に納めてある広島の原爆死没者名簿には、29万7684人が載る。叶真幹館長は「被害の大きさを伝える上で、遺影などを通じて犠牲者一人一人の存在を記録するのは不可欠。ぜひ登録してほしい」と求めている。同館Tel082(543)6271。(水川恭輔)

(2015年10月28日朝刊掲載)

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