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福竜丸被曝 発信の足跡 調査の故西脇氏 欧州で反核講演 掲載記事や写真現存

 1954年3月に米国の水爆実験で被曝(ひばく)した第五福竜丸の放射性降下物「死の灰」を調べた物理学者、西脇安(やすし)氏(1917~2011年)が、直後に欧州各地でデータを発表し、原水爆禁止を訴えた様子を伝える資料が現存していた。現地での講演に関する新聞記事のスクラップや写真など。核実験の被害実態をいち早く海外へ伝え、核実験禁止への国際世論を高めた活動の貴重な記録として、研究者が注目している。

 西脇氏は当時、大阪市立医科大(現大阪市立大)の助教授。資料にあった各社の新聞記事から、54年7~11月に英国、フランスなど欧州10カ国の大学や研究所20カ所以上を訪れていたと判明した。講演を取り上げた西ドイツの10月1日付の記事は「原爆は人類に脅威を与える」の見出し。「(死の灰を浴びた)魚を食べて影響がどれだけかわからない」など、講演内容の一部のメモ書きもある。

 渡欧時の数百枚の写真の中には、東京大などの研究者が「死の灰」からウラン237を検出した経緯を説明するカットもあった。237は、後に英国の物理学者、故ジョゼフ・ロートブラット氏が実験で使われた爆弾が「核分裂・核融合・核分裂」の3段階で大量の放射性物質をまき散らす「汚い爆弾」と指摘する根拠となった。

 また一連の報告は反核の国際世論を喚起し、57年に核兵器廃絶を目指す科学者による国際組織「パグウォッシュ会議」が発足するきっかけになった。

 ほかに、70年代から教えたオーストリア・ウィーン大の講義に使ったとみられる広島原爆の放射線被害の英文説明などもある。資料は、東京工業大の山崎正勝名誉教授(科学史)ら研究者が遺族から段ボール箱約80個分を託された。千点以上とみられ、同大での保存、公開へ本年度末までに目録を作るという。

 山崎名誉教授は11月1日から長崎市であるパグウォッシュ会議の第61回世界大会で、資料を踏まえた西脇氏についての論文を希望者に配る。(水川恭輔)

(2015年10月29日朝刊掲載)

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