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「制度の抜本改革を」 原爆症訴訟 原告・支援者 集会や会見

 原爆症認定をめぐり、被爆者17人が全員勝訴した29日の東京地裁判決を受け、原告の被爆者や支援者たちが東京、広島などで記者会見や集会を開いた。

 東京地裁前では、判決が出ると、弁護団が「全員勝訴」「被爆者はもう待てない」などの垂れ幕を掲げた。集まった被爆者や支援者の拍手と歓声が広がる中、山本英典原告団長(82)たちが「制度を抜本的に変えろ」「国は控訴するな」と拳を突き上げた。

 東京・日比谷であった記者会見には、原告や遺族が出席。喜びとともに、これまで認定を拒んできた国への怒りをあらわにした。長崎で被爆した高石洋一さん(84)=東京都杉並区=は「全員認められたのはうれしいが、(申請却下から)7年かかったことには強い憤りがある」と訴えた。

 前立腺がんを患う佐田憲一さん(73)=東京都国分寺市=は、爆心地から約3・6キロで被爆。がんでは約3・5キロまでの被爆しか原爆症と認めない国の姿勢を「距離で区切るのは論理的ではない。(被爆後などの)症状を見て判断してほしい」と非難した。

 続いて開いた集会には、全国から約180人が参加。広島、名古屋など地裁や高裁で認定を争う原告や支援者から「勇気が出る判決だ」「これからも闘い続ける」との声が相次いだ。

 広島訴訟の原告と弁護士は広島市で記者会見した。佐々木猛也弁護団長は、東京地裁判決を「被爆距離と疾病の縛りを外したのは大きな意味がある。広島を含む各地の裁判に影響を及ぼすと思う」と評価した。甲状腺機能低下症を患う原告の佐々木シズエさん(85)=廿日市市=は「年を重ねて時間がない。国はきちんと対応してほしい」と強調した。(藤村潤平、浜村満大)

【解説】「切り捨て」やめる時

 原爆症の認定をめぐる司法判断は29日、明暗が分かれた。東京地裁は被爆者17人が全員勝訴。大阪高裁は、一審では原爆症と認められた被爆者が逆転敗訴した。ただ、過去の判決も含めて司法のメッセージは一貫している。一人一人の被爆状況や症状で原爆症を判断せよ、ということだ。

 国の認定基準は、病気の種類や被爆距離などの要件を厳格に運用する。対象外の申請は、ほぼ認めない。一方で、東京地裁の判決は、被爆後の発熱や下痢といった急性症状も考慮し、原爆症と認定した。黒い雨などの放射性降下物や内部被曝(ひばく)の影響も無視できないと考えるからだ。

 大阪高裁の判決は、被爆者側には厳しい判断になったが、病気の特異性や入市時期をつぶさに見極めようとしている。その点では、基準でしか原則判断しない国の姿勢と大きく異なる。

 だからこそ、行政と司法の溝が生じるのだ。その解決策の一つを日本被団協は3年前に示している。現行の認定制度の廃止と被爆者手当の創設だ。だが、法改正などのハードルもあり、国は提案を受け入れようとはしていない。司法のメッセージは明確なのに、国や政治が新たな措置を講じないのは、年老い、声が細る被爆者を切り捨てる行為に等しく、許されない。(藤村潤平)

(2015年10月30日朝刊掲載)

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