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社説・コラム

天風録 「語ると思いと聞く思い」

 聞くも涙、語るも涙、という。思い出す人はもちろん、受けとめる側も心を寄せて、感極まる。とりわけ悲惨な戦争体験や残された者が重ねた苦労がそうだ。互いにつらくとも共有したい話がある▲この少女も耳を傾け、涙を流し、身を震わせたらしい。「少年の主張」全国大会で最優秀賞になった広島市の中学2年藤井志穂さん。本紙ジュニアライターの一員として被爆体験を聞き取る中で、考えたことを訴えた▲「語る思いと聞く思い」と題した約5分の発表。取材した被爆者とのやりとりを、まるで一人芝居のように再現した。ある人は8月6日を語るうちに柔和な顔を不意に一変させ、引きつったような笑みで恐ろしい光景をまくしたてた、と▲傷に触れた―。少女は自らを責め、一時は取材が嫌になる。だが別の被爆者の「苦しんでも話す」との信念を知り思い直した。「私は聞きます。全力で」。結びの言葉に拍手が広がったのも、固い決意への共感だろう▲小6から高2まで、45人のライターが活動する。あの日を語る思いを、受けとめる覚悟を持って向き合う。被爆者が減る今、ジュニアならずとも体験を聞き、ともに涙したい。核廃絶を強く誓うために。

(2015年11月11日朝刊掲載)

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