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映画「天皇と軍隊」戦後史の底流追う 渡辺監督、広島で解説

 フランス在住のテレビ番組制作者渡辺謙一さんが、日本戦後史の底流を追ったドキュメンタリー映画「天皇と軍隊」を完成させた。公開に先立ち、広島市を訪れた渡辺さんは「歴史的事実を断片的に捉えるのではなく、事実と事実の間を一連の流れで読んでいく作品」と評する。

 東京裁判や靖国問題に代表される戦争責任をめぐる「天皇」の位置付けと、朝鮮戦争による特需景気や再軍備、自衛隊の海外派遣といった「軍隊」の存在。1945年8月15日の玉音放送から現代に至る膨大なニュース映像と、国内外の識者や政治家へのインタビューで、戦後史から「天皇と軍隊」を浮き彫りにした。

 「フランス人にとって分かりにくい日本の政治課題の原点を探りたかった」と制作の動機を振り返る。主権在民の一方で象徴天皇に敬意を表す。憲法9条を掲げながら、世界屈指の軍事力を持つ自衛隊が海外に展開する…。その矛盾やあいまいさを知る鍵を、通史として戦後を捉える映像作品に埋め込んだ。

 渡辺さんが特に関心を抱くのが昭和天皇と被爆地・広島の関係だ。47年12月7日、復興途上の広島を天皇が訪問し、原爆ドームの目の前で群衆に向き合った「天皇行幸」だ。

 「12月7日は、米国の現地時間で真珠湾を奇襲された開戦の日。そして、原爆ドームは米国人にとって戦争終結の象徴でもある。戦争の始まりと終わりの間に、天皇と日本国民を据える演出を米国は行った。戦争や昭和を知らない人に、その意味をかみしめてほしい」。米軍が撮影した天皇行幸の映像と、原爆投下について尋ねた中国放送記者の質問に、昭和天皇が「広島市民に対しては気の毒であるが、やむを得ないこと」と答えた75年10月の皇居での記者会見映像を作品の最終盤に据えた。

 渡辺さんが監督を務めた初の劇場公開作品「天皇と軍隊」は12月1日から、広島市西区の横川シネマで上映される。(石川昌義)

(2015年11月24日朝刊掲載)

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