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連載・特集

イワクニ2015 艦載機移転を見据え準備

 在日米軍再編で、岩国市の米海兵隊岩国基地には2017年ごろまでに、米海軍厚木基地(神奈川県)から空母艦載機59機の移転が予定される。移転を見据えた準備工事が岩国基地と愛宕山地区で着々と進む中、米軍機などの騒音被害をめぐる岩国爆音訴訟で山口地裁岩国支部は10月、初めて騒音の違法性を認めた。県と市は艦載機の受け入れを明言していないが、移転で予想される市民の負担をいかに取り除くか、十分な議論が不可欠だ。(野田華奈子)

爆音訴訟 国に賠償命令

違法な騒音 今後も

 岩国基地周辺の住民が国を相手に起こした岩国爆音訴訟で、地裁岩国支部は10月15日、これまでの騒音被害に対する総額約5億5800万円の賠償を命じた。将来の被害に対する請求や艦載機移転の差し止めなどは退けた。

 一方で、国が騒音対策として滑走路を沖合に移設した2010年5月以降も「なお相当数の原告が強い騒音にさらされている」として、騒音軽減効果の限界を指摘した。

 岩国基地の米軍機数は再編後、120機を超えて極東最大級となる見通しだ。判決は、艦載機移転後の騒音について「現時点に比べて高まることは容易に想像できる」と言及。違法なうるささが続く可能性を示唆した。

 騒音の聞こえ方は米軍機の飛行ルートに大きく左右され、必ずしも基地周辺だけに被害が及んでいるわけではない。柳井市ではことし、米軍機とみられる騒音苦情が急増。11月末、市は日積地区に独自に騒音測定器を設置した。広島市内でも低空飛行の目撃件数が増加しており、自治体の枠を超えた実態把握や対策が急がれる。

受け入れの判断

市長「国との協議の先に」

 中谷元・防衛相は12月2日、岩国基地視察のために市を訪れ、艦載機移転への協力をあらためて福田良彦市長に求めた。

 市も県も、「米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設の見通しが立たないうちに艦載機移転を進めることは認められない」との立場だ。市街地にある普天間飛行場の危険性除去が再編の目的の一つであり、岩国の負担だけが増える事態は受け入れられないとの姿勢を示す。

 普天間飛行場をめぐっては、辺野古移設を進める政府と反対する沖縄県が互いに裁判に訴える異例の事態となっている。艦載機移転の前提となる普天間移設の見通しを尋ねた福田市長に対し、中谷防衛相はあらためて辺野古移設を進める考えを強調した。

 市は米軍再編に関連し、国に43項目の安心安全対策や幹線道路網の整備などの地域振興策を要望。福田市長は再編に協力姿勢を示しているが、艦載機移転の受け入れの判断は「国との協議の先にある」とする。

 政府は15年度、米軍再編で基地負担が増える都道府県を対象にした新交付金制度を創設。18億5200万円全額を山口県に交付した。県道拡幅や河川改修などのハード事業に充てる。16年度政府予算案には増額された20億円が盛り込まれた。

 岩国基地の拠点性が高まる中、増える負担を金銭で補うことだけが地方自治ではない。国と県市は、市民生活に及ぶ基地負担や新たなリスクに向き合い、実効性のある解決策を導かなければならない。

進む米軍施設整備

情報共有や安全 不可欠

 岩国爆音訴訟の判決が言い渡された10月15日、市中心部の愛宕山地区では国が米軍の運動施設として建設する野球場の起工式があった。17年3月末の完成予定で、市民も利用できるのが特徴だ。

 艦載機移転に伴って愛宕山地区に整備される米軍施設は、米軍家族住宅エリア(約28ヘクタール)と運動施設エリア(約16ヘクタール)で構成。野球場は運動施設エリアにあり、約8千人の観客席を備える。家族住宅は愛宕山地区に約270戸、岩国基地内に約790戸を整備する予定で、隊員や家族約3800人が市民と隣り合って生活する。

 15年度の艦載機移転関連の予算額は、過去最多の1019億3700万円(契約ベース)。基地内は、格納庫や住宅、公共施設など未曽有の建設ラッシュとなっている。

 だが3月には、岩国基地内で工事中の航空機給油設備から1月に大量の燃料が地中に漏れていたことが発覚。他の工事や米軍への影響はなかったが、中国四国防衛局が当初、県に報告していなかったことも分かり、情報共有や安全対策の必要性が浮き彫りになった。

1月

  9日 米海兵隊岩国基地の在日米軍再編に伴う施設整備経費31億円を盛り
     込んだ2014年度補正予算案が閣議決定

 14日 政府が15年度予算案を閣議決定。岩国基地への空母艦載機移転予算
     として過去最多の1019億3700万円、在日米軍再編で基地負担
     が増える都道府県を対象に設ける新交付金制度として県に18億52
     00万円を計上

 15日 岩国基地の米軍機とみられる航空機騒音の苦情が、13日からの3日
     間で市に計127件寄せられる

 30日 周防大島町と和木町が、基地をめぐる安心安全対策や地域振興策の充
     実などを国に要望▽岩国基地のロバート・ブシェー司令官や福田良彦
     市長が基地周辺などをパトロール。安心安全対策の一環で、実施は3
     年半ぶり

2月

 19日 市が15年度当初予算案を発表。岩国基地関連は過去最高の総額78
     億6500万円▽岩国基地の滑走路沖合移設をめぐり、住民が知事の
     公有水面埋め立て承認処分の取り消しなどを求めた訴訟で、最高裁第
     1小法廷は住民側の上告を棄却

 21日 中国四国防衛局が、愛宕山地域開発事業跡地の米軍施設整備について
     の住民説明会を開催

 26日 沖縄、神奈川県などの在日米軍基地に所属する少佐や大尉たちが市を
     訪れ、地域と基地の関わりなどについて福田市長から説明を受ける

3月

  3日 岩国基地で1月中旬、KC130空中給油機に燃料を供給する設備の
     地下配管から大量の燃料漏れが起きていたことが判明

4月

 20日 中国四国防衛局が岩国基地の在日米軍再編関連工事の地元業者向け
     説明会。15年度、過去最多の150件の工事を計画していること
     が明らかに

 21日 海上自衛隊岩国基地が、同基地所属のMCH―101掃海輸送ヘリコ
     プターが飛行中、部品を紛失した可能性があると発表

 28日 海自岩国基地所属の救難飛行艇US2が高知県沖で水没。乗組員19
     人のうち5人が軽傷

 30日 海自岩国基地所属の救難飛行艇US2の事故を受け、県と市が原因の
     早期究明などを同基地に申し入れ▽岩国基地が空母艦載機の陸上空母
     離着陸訓練(FCLP)の予備施設の一つに指定されたことに対し、
     広島県と広島市、廿日市市、江田島市が、岩国基地で訓練しないよう
     求める要請文を国などに送付

5月

  3日 岩国基地で米海兵隊と海自の初共催による「航空基地祭・日米親善デ
     ー」。約16万5千人が来場=写真

 17日 米海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが米ハワイ州で着陸
     に失敗。隊員2人が死亡

 19日 中国地方知事会が、垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの安全対策
     の説明などを国に求めるアピール文を採択

 21日 岩国基地の米軍機とみられる航空機騒音の苦情が、市に120件寄せ
     られる

 22日 広島県内で14年度に目撃された米軍機とみられる低空飛行が延べ1
     111件だったことが判明

6月

  8日 海自岩国基地が、隊員規律に違反して飲食店でアルバイトしたとし
     て、第31整備補給隊の3等海曹男性(38)を停職6日の懲戒処分
     にしたと発表

 10日 広島県が米軍機による低空飛行訓練の中止と垂直離着陸輸送機MV2
     2オスプレイの安全対策の説明を求める要請書を国に提出

 16日 柳井市で本年度、岩国基地の米軍機とみられる航空機騒音への苦情が
     急増していることが判明。4、5月だけで同市に計58件寄せられる

7月

  3日 岩国基地の米軍機とみられる航空機騒音が4月以降、深刻化している
     として柳井市東部の住民が、騒音軽減を米軍に働き掛けるよう求める
     文書を中国四国防衛局に提出

 17日 岩国基地で1月、工事中の航空機給油設備から大量の燃料が漏れた問
     題で、中国四国防衛局は大雨でステンレス製配管が水びたしになり、
     地中の塩分で腐食して漏れたとの調査結果を県と市に報告

8月

 10日 廿日市市の市民団体が、原爆投下から70年となった6日に米軍機が
     広島県内を飛行したとして日米両政府に飛行中止を求める要請書を提
     出

 18日 県基地関係県市町連絡協議会が、中国四国防衛局に岩国基地の騒音軽
     減や地域振興策の充実などを申し入れ

9月

 10日 県は、在日米軍再編で基地負担が増えるとして政府が15年度に支払
     う新交付金を活用し、岩国市と和木、周防大島両町で県道改良や河川
     改修など計7事業に着手すると決定

 14日 岩国爆音訴訟の原告団や弁護団が、岩国基地への空母艦載機部隊の移
     転差し止めなどを命じる判決を求める7779人分の署名を山口地裁
     岩国支部に提出

 19日 集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法が成立

10月

  7日 愛宕山地区の住宅市街地開発事業の認可を国が取り消したのは違法と
     して、周辺住民が国に処分取り消しなどを求めた訴訟の控訴審の判決
     が広島高裁であった。原告適格を認めなかった一審広島地裁判決を支
     持し、原告側の控訴を棄却

 15日 岩国爆音訴訟で、山口地裁岩国支部が過去の騒音被害に限り、約5億
     5800万円の支払いを命じる▽中国四国防衛局が米軍運動施設とし
     て愛宕山地区に建設する野球場の起工式

 20日 陸上自衛隊第13旅団(広島県海田町)と米軍の日米共同警護出動訓
     練が岩国基地など山口、広島両県の米軍4施設で始まる。米軍施設を
     狙ったテロ攻撃などを想定。安全保障関連法成立後は初めて=写真

 21日 愛宕山地区の住宅市街地開発事業の認可を国が取り消したのは違法と
     して、周辺住民が国に処分取り消しなどを求めた訴訟で、住民側は、
     住民側の原告適格を認めなかった広島高裁判決を不服として、最高裁
     に上告

11月

 13日 海自岩国基地が、4月の救難飛行艇US2の事故について、両翼に2
     基ずつ計4基あるエンジンのうち1基が使えなくなったことなどが原
     因とする海自事故調査委員会の調査結果を発表

 25日 海自岩国基地が、広島市内で雑居ビルの一室に侵入したとして、第3
     1整備補給隊の20代の幹部自衛官男性を停職5日の懲戒処分にした
     と発表

 30日 柳井市は岩国基地の米軍機とみられる航空機騒音の苦情が急増してい
     る日積地区に騒音測定器を設置

12月

  1日 広島市内で本年度に目撃された米軍機とみられる低空飛行が45件
     と、調査を始めた1997年度以降の年間数で既に最多となったこと
     が明らかに

  2日 中谷元・防衛相が岩国基地のブシェー司令官と面会し、航空機の安全
     運用などを求める。市も訪れ、福田市長に空母艦載機移転の協力を求
     める

 14日 岩国基地が航空機のエンジンテスト用の新しい減音施設を報道陣に公
     開=写真

 17日 広島県が、米軍機による低空飛行訓練の中止などを求める要請書を国
     に提出。米国大使館、岩国基地にも郵送

(2015年12月29日朝刊掲載)

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